071 「死んでみて判ったことが、色々ある」
僕は、巨大な黒い怪物となった雲が空を覆っているのを見る。
その岩盤じみた塊である雲は、燃え盛る赤い光に照らし出されていた。
血を流す黒い怪物が、空に浮かんでいる光景というべきか。
黒い花びらが、空から舞い落ち続けている。
僕は、それが灰であることを知っていた。
地上を覆っている灰色の海もまた、赤い光によって燃え上がっている。
空も海も、赤い焔によって七割近くが焔につつまれているようだ。
そして残った部分は、黒い闇に支配されている。
もう、世界はほぼ死に絶えつつあった。
世界の終わりという、やつだ。
僕は、ため息をつく。
僕は、ここがナツの夢の中であることを知っている。
死んでみて判ったことが、色々あった。
まず、記憶を操作され封印されていたのは、ナツだけでは無かったということ。
つまり、この僕もまたハルオに利用され記憶を封印されていたのだ。
ナツを造ったのはハルオだったのかもしれないが、その中に黒竜式たちをコントロールするプログラムを組み込んだのは僕だった。
ハルオは、情報処理の学会誌に発表したグリッドコンピューティングのプログラム技法を見て、僕にコンタクトをとってきたのだ。
僕はハルオに誘われるまま、黒竜式という群体を制御するシステムを構築した。
まさにそれは、ピア・トゥ・ピアのネットワークを組み上げることで実現される、グリッドコンピューティングシステムである。
ナツの住む屋上で出会ったハルオは、はじめて会ったにしては、妙にこちらを知り尽くしているふうだったと、今にしては思う。
それと、ナツのネットへの書き込みを僕が見て、それが真実だと思ったのは当然だった。
ナツの鉄人式を制御するアビオニクスのプログラムを行ったのは、僕だったのだから。
そのころ、僕はハルオのパートナーとして働いていたのだ。
ハルオは、ピア・トゥ・ピアのコアブロックを体内に組み込み黒竜式をコントロールできるひとを探していた。
僕は、ハルオの体内に黒竜式制御のコアブロックを組み込むことは試みたが、失敗に終わる。
バギュームへの適合がより完全なひとが、必要とされた。
それが、ナツだ。
ナツは鉄人式の機体をハルオ以上に巧みに操るが、それはバギュームへの適合能力がハルオよりも高いためだ。
ナツとハルオの出会いは偶然であったが、それは僥倖といってもいい出会いだった。
僕等は、ナツにコントロールプログラムのコアブロックを組み込んだ。
それをカンパニーの目から隠すために、封印した。
しかし、封印されたのはナツだけではなく、僕の記憶も封印されていたようだ。
一度死んでナツの血の中で蘇った僕は、全てを思い出していた。
僕は、黒と赤に染められた海辺に佇むナツを見出す。
ナツは、漆黒の肌と金色の髪を持つ少女、フユカと一緒に佇んでいる。
フユカの手には金色の心臓、コアブロックがあった。




