070 「終わりの始まりが、終わったというところ」
やがて激しい揺れはおさまり、強風が吹きすさんでいる程度まで状況は落ち着く。
わたしは、盾となっていたビルを見上げる。
その大きなビルは窓ガラスは割れ、廃墟のような様相を示していた。
そのビルの向こうには、真っ黒な空が見える。
そしてその黒い空へむかって、巨獣のような塊のきのこ雲が昇っていく。
「案外、被害は小さいな」
わたしは、ため息をつく。
核兵器を使われたのであれば、もっと酷いことになってもよさそうなものだ。
スミスは、皮肉に笑った。
「威力を抑えた戦術核が、プラズマ砲で迎撃され海洋上で爆発したせいだろう。湾岸部で爆発していれば、もう少し酷いことになったはずだ」
雪のように、白いものが降り始める。
おそらくは、灰なのだろう。
世界は死に絶え、放射能まじりの灰に包まれてゆく。
「さて、そろそろ行こうか」
わたしは驚いて、スミスの顔を見つめる。
「いったい、どこへ行くんだよ」
「東京湾の状況を、確認するんだ」
わたしは、呻いた。
「冗談だろ、高濃度の放射能に汚染されたところに行くなんて」
スミスは、くすくす笑う。
「おいおい、まるで死刑囚が刑の執行前に、健康を気遣うみたいだぜ」
わたしは、肩をすくめる。
まあ、そうなんだろう。
どうせ、わたしたちは太陽爆弾に焼かれて死ぬのだ。
放射能くらい、気にしたってしかたがない。
わたしはエンジンを機動し、ヘリを再び上昇させた。
風は強いが、航行に支障をきたすほどではない。
それでも激しく揺れるヘリを、なんと宥めすかしながら湾岸部へ向かう。
空は炭に塗りつぶされたように黒いが、ところどころに亀裂があり、光の柱がたっている。
その光に照らされた海が、見えた。
埋立地である人工島と、首都高速に囲まれた陸地との間にある海だ。
銀灰色に鈍く光るその海は、底のほうに赤い輝きを秘めている。
海底に、巨大な焔が広がっているようだ。
間違いなく、ゴジラサウルスたちである。
黒竜式たちは核攻撃を生き延び、海底を移動していた。
多分、数分後には上陸するだろう。
スミスは、薄く笑った。
「終わりの始まりが、終わったというところかな」
「どうなるんだ?」
わたしの問いに、スミスは皮肉に笑う。
「戦術核がだめなら、ICBMの出番だろうけれどな」
目を丸くしたわたしを見つめ、スミスは少し肩をすくめる。
「戦術核の使用ほどそいつは、簡単じゃない。国家間の調整も、大規模になるだろう。少し、時間がかかるよ」




