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007 「陽が落ちたら、空を飛ぼう」

アキオがわたしの部屋にやってきたのは、もう間もなく陽が沈もうかという時間だった。

夜の足おとが聞こえてくる、秋の夕暮れ時だ。

空はよく晴れており、空を飛ぶにはよい天気だと思う。

わたしは、ビルの屋上で赤く燃える空の前に立つアキオを眺める。

彼は繊細そうな顎のラインをして、感受性の強そうな眼差しを持つ青年だ。

おそらく少年の頃は美少年だったのだろうと思うが、いいおとこと呼ぶには線が細すぎる。

それに怜悧な知性の輝きを秘めたその目は、かなり切れ者に思わせられた。

文学青年風の外見でひとを騙しているようだが、じっさい油断ならないほどに頭の回転が速くしたたかではないかと思う。

そんなアキオを見て、わたしはふふふと笑った。

「なんですか?」

アキオは怪訝な顔をして、わたしを見ている。

わたしは、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「やっぱりあなた、オタクでしょ」

「薮から棒に、何を言うんですか」

面食らったふうなアキオを、わたしはせせら笑う。

「あなたの着ているそのジャンパー、ウィリアム・ギブソンモデルだよね」

アキオは、びっくりした顔をして少し頬を赤らめた。

彼が着ているのはウィリアム・ギブソンというサイバー・パンクの大御所的作家が、自身の小説の中に登場させた架空のジャンパーをファッションメーカーが現実につくりあげたというものだ。

おそろしく高価だが、見た目はホームセンターで売ってる作業着ふうのジャンパーと変わらないという、あきれた代物である。

オタク以外のひとには、価値を見出すことが困難な服だと思う。

「べ、別にそんな珍しいものじゃないですよ」

「いやいや、4万円もするナイロンのジャンパーなんて普通買わないよ。それだけ出すなら、革のジャケット買えるじゃん。それとさ」

わたしは、少し優しげな笑みを投げてあげた。

「敬語はやめようよ、年は同じだよね」

「判ったよ」

アキオは意外にも、素直に応じた。

多分初対面のひととは打ち解けにくいタイプのようだが、少しガードを下げたらしい。

それは、わたしのポイントだ。

わたしは満足して頷き、西の空を指差す。

「陽が落ちたら、空を飛ぼう」

そういいながら、屋上で野ざらしにしている冷蔵庫を開けコーラの瓶をほうりなげた。

予想外に、アキオは瓶を上手くキャッチする。

思ったより、運動神経はいいらしい。

わたしは屋上においたパイプ椅子に座ると、傍らの椅子を進めた。

「ま、コーラでも飲みながら陽が沈むのを待とうか」


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