062 「スターウォーズ・エピソード4だったっけ」
痛い。
くそっ、痛いっていうのよ。
身体に刃物を突き立てられたような痛みがある。
けれど、こころの痛みがそれに重なってた。
なんてことかしら。
わたしは、死体を乗せて飛んでる。
痛みと恐怖と哀しさがわたしに吹雪のように襲いかかり、目の前が何度も昏くなった。
ひどい、ひどすぎる。
それでも、わたしはダークペガサスを追尾していた。
逃がしは、しない。
わたしは、アキオから得た血の分でブーストをかけ、ダークペガサスをロックオンする。
もらったと、思う。
バルカンを発射しようとした瞬間、頭の中で声がした。
(左上だよ、ナツ。左上を狙え)
わたしは反射的にその声に従って、照準を少しずらした。
ダークペガサスは、わたしがバルカンを発射すると同時に機体を左上へ上昇させる。
狙いは見事に、嵌っていた。
ダークペガサスは、焔に包まれ墜ちてゆく。
さっきのは、アキオの声みたいだったような。
ああ、これってあれじゃないのかな。
スターウォーズ・エピソード4だったっけ。
死んだはずのオビワンが、ルークの頭の中に「走れ」って声かけてくるの。
(そんなことは、どうでもいい)
アキオのそっけない声が、もう一度響く。
何よ、どういうこと。
あんた、死体になってるじゃない。
(バギュームを使って、イオン結晶でシノプシスの発火パターンをトレースすれば、意識のコピーはできるんだ)
何それ、わたしの血の中にアキオが入り込んだってこと?
うっとうしいし、出ていってほしい。
(ひどいな、死んでしまうだろ)
あれ、アキオは死んでないってこと?
(どうでもいいから、ポセイドンを追え。もう、MK-54型魚雷を発射してしまう)
わたしは、惜しみ無く血を燃焼させることにした。
全身が、燃え上がるように熱い。
苦痛と音を置き去りにするようにわたしは加速し、ポセイドンの上に出る。
空飛ぶ鯨のように巨大なポセイドンを見下ろし、わたしはバルカンを撃ちまくった。
ダークペガサスと違って、回避運動をとる余裕はポセイドンにはない。
一気に焔が、ポセイドンを包む。
ポセイドンは、巨大な真紅の彗星となって墜落する。
これで、終わったのだろうか。
わたしは力尽き、目の前が昏くなっていく。
(だめだナツ、遅かった。滑空ユニットは発射されてる)
なんですって。
でも、もう無理。
わたし、今ので最期の力を使い切ったと思う。
レーザーは、内臓を切り裂いてたようだ。
バギュームは生命維持のため、身体を補修してるみたいだけれど、これ以上は無理みたい。
もう、思考を続けることに限界がきていた。
わたしは、急速に力を失っていく。
落下しながら、視界の片隅に翼を広げ降下していく滑空ユニットを見た。
ロックオンはしたけれど、バルカンを発射する力はない。
わたしの意識は、闇に堕ちた。




