006 「おれは、彼女に会わなくてはならない」
戦闘機械は、脱国家的だと言う。
かつてこの島国の評論家は、先の世界大戦以降戦争が犯罪化し犯罪が戦争化するような事態が進行したと言った。
元々戦争というものは国家間で行われる外交行為の延長とされていたが、二度の世界大戦はそのような概念を打ち砕いたともいえる。
しかしおれは、そもそも戦争はそのようなものであったはずだと思う。
戦争自体が、本来脱国家的であったのだ。
草原の騎馬民族は自由に国境を越え、そこかしこで火を放ち略奪をした。
国家はそれら自由に活動していた戦争機械を、自身の支配下に組み込むことを行う。
けれどそうした古典的な概念で成立するような国家は失われ、ひとの経済活動自体が脱国家化していくことになる。
帝国はもはや主権国家のメタレベルに位置しうるようになり、それは戦闘機械を野に放つことになった。
今や戦争というものは、制御されぬ戦争機械たちのテロルとカウンターテロルの時代となっている。
おれは、そうした戦争機械のひとつを手に入れた。
それは、先の世界大戦が産み落とした武器である。
おれはそれを使い、帝国に火を放つつもりだ。
おれはまず、空を手に入れるだろう。
空ははじめから脱領土化されており、そこは誰のものでもない。
もちろん空にも国境線はあるかもしれないが、それは概念的なものだ。
おれは戦争機械という現実を用いて、その概念を砕く。
そしておれは、彼女に会わなくてはならない。
おれが造り上げ、この世に産み落とした空飛ぶ戦争機械。
彼女の名は、ナツという。
ハヤカワ・ナツ。
それが、彼女の名前だ。
彼女は、おれの手でもってこの世に生み直した。
おれが彼女に埋め込んだ炎は、眠っていた。
しかし、それは目覚めたようだ。