056 「世界の終わりというやつを、見ることができるよ」
その湾岸エリアは、わたしには工場の一部に思える。
埋め立てられて造られたその地域は、どこまでも人工的な風景が続く。
人工的なばかりではなく、ひとの住めるような気配が無い。
ただ幾何学的なデザインで造られた倉庫や、事務所が入居しているビルが続くばかりだ。
実際、歩行しているようなひとは皆無といっていいだろう。
広く直線的な道を走るのは、トラックばかりである。
ところどころに高速道路への入り口があり、遠くにはクレーンが立ち並ぶ船着き場があった。
その湾岸の一ヶ所にわたしは車を停め、海を見ている。
P-8Aポセイドンが横田から飛び立ったのは、真昼の少し前くらいだ。
明るいほうが、ハルオたちにとって不利になる。
まあハルオなら、どうであろうと関係ないと言うかもしれないが。
そろそろ横須賀から飛び立ったダークペガサスたちが、ポセイドンに合流するころだ。
そして東京湾に侵入する時に、ポセイドンは高度を下げる。
そのタイミングで、ハルオたちが襲いかかるだろう。
ふと、視界にトラックが目に入り、わたしは腰の拳銃に手をかける。
大きなトレーラートラックは、わたしの数十メートル手前で停車するとホーンを鳴らした。
運転席から身を乗り出して手を振るそのおとこは、ジョン・スミスだ。
わたしは、拳銃から手を離す。
ジョン・スミスは、トラックをわたしのそばに停めると運転席から降りてわたしのそばに立つ。
「もうそろそろ、作戦開始の時間だな」
わたしは、スミスの言葉に頷き、トラックの積荷へ目をやった。
「まさかそいつは、ステルス・ブラックホークなのか?」
スミスは薄く笑って、頷く。
「まあ、役に立つこともあるんじゃないかと思ってね」
わたしは、ため息をつく。
「カンパニーの武器管理は、とんでもなくザルだな」
スミスは、笑った。
「この極東にある島国では、外注が好き勝手やってもよかったんだが、ハルオのおかけで楽園から追放されたよ」
スミスは、わたしの車に積まれたモニターを眺める。
車に積んだレーダーはモニターを通じて、P-8Aポセイドンを捉えておりその高度がもうすぐ8千メートルを切ることを知らせていた。
「さて、いよいよはじまるわけだ」
「ああ」
わたしは、煙草を咥え火をつける。
「世界の終わりというやつを、見ることができるよ。きっと」
わたしは、口の端を歪めて笑う。
「まあ、奇跡でもおきない限りね」




