050 「お前、何にも判ってないよな」
ハルオとジョン・スミスは、部屋のリビングキッチンで腰をおろしていた。
アイパッチのリディアと、ライダースジャケットのハルオ、それとテンガロンハットを頭にのせバックスキンにフリンジがついたウェスタン調ジャケットを着たスミスが揃うと中々の壮観だ。
僕は、うんざりした口調になる。
「ハルオ、あんたとスミスはグルだったのか」
ハルオは、爆笑した。
「アキオ、面白いなお前」
ナツは、真面目に問いかける。
「違うのかしら」
「まあ、元々目的は一緒だが、そこに至る道が違うというやつだな」
ハルオの言葉に、スミスが苦笑いを浮かべる。
「目的は、全く違うと思うがまあ、大量破壊兵器を国家にコントロールさせたくはないという点では似ている」
僕は、首をふった。
「確かに百一機のプラズマ砲は大した破壊力だけれど、戦術核兵器以下じゃないですか」
「お前、何にも判ってないよな」
ハルオが、薄ら笑いを見せる。
僕がむっとなると、さらに笑い顔を深めた。
「黒竜式は、核融合兵器だ。コントロールしなければ暴走する」
僕は、驚いて目を見開く。
「核分裂はメルトダウンするけれど、核融合はしないって聞いたけど」
ハルオは、鼻で笑う。
「バギュームという触媒を使っているからな、常温核融合が可能だし、扱いを間違えれば暴走するんだ」
スミスは、落ち着いた口調で語りはじめる。
「あれは秘匿されたまま、管理されるべきものだったんだ。しかし、今や官僚たちにその存在がばれてしまった。彼らは、危険なものとして認識したが、それはとても中途半端な理解でしかない。やつらはあれを、破壊しようとしている」
ナツが、口をはさむ。
「あれって、海の底に沈んだじゃん」
スミスは、首をふる。
「手間がかかるが、掘り返せば取り出せるさ。官僚たちは、そうしたくはないし、誰かにそうされるリスクも無くしたい。だから、戦術核を使って破壊しようとしている」
僕は、びっくりした。
「東京湾で、核兵器を使うなんて」
「中性子爆弾を、使用する。小型のものが海底で爆発しても、残留放射能は軽微だし爆圧も無いに等しい」
いや知ってるけれど、そんな訳ないだろうと思う。
東京湾は、放射能に汚染されてしまうんじゃないかという気がする。
ハルオは、馬鹿にしたような笑いを浮かべている。
「ようするに馬鹿どもは、黒竜式を生き物と勘違いしている」
「え、違うの?」
ナツの言葉に、ハルオは失笑で応えた。
「東京湾の底にあるのは、封印されたディラックの海だ。そんなものに、中性子を照射するなんざ、正気の沙汰じゃない」




