005 「外の世界はすべてがリアルタイム」
僕は四年ぶりに、外へ出た。
部屋の外の世界、そこは時間の流れが違う世界であるように思える。
閉じた空間では時間は淀んでおり、ゆっくりと流れていく。
でも外の開けた世界に出ると、時間の流れがとてつもなく速く思えた。
しかも、多くのものがインタラクティブな反応を要求する。
僕はそうした要求に答えるため、久しぶりに脳の活動を全開にしていた。
まあ、ネットの世界でもインタラクティブだといえば当然そうだけど、リアルタイム性を要求される場面はさほどない。
でも、外の世界はすべてがリアルタイムだった。
僕は、外は強度の世界だと思う。
測定したり、数値化することのできない力が次々に襲いかかってくる。
四年前は、そうしたことを当たり前にやっていたんだなあと思うと、少し驚く。
無重力の世界に慣れた宇宙飛行士が、久しぶりに地上に降りたらこんなふうに感じるのかと、思ったりする。
さて、僕が会いにいこうとしている彼女は、ナツと言う名だ。
ハヤカワ・ナツ。
彼女は、そう名乗った。
ナツは、僕と同い年くらいのようだ。
仕事はしているみたいなのだが、要領をえないところを見るとフリーターみたいなものらしい。
彼女は僕らの暮らす極東の島国の、首都圏に住んでいる。
海の近くらしいが、海辺な感じではない。
空港や高速鉄道の駅も近くにあるようで、首都圏の玄関口ともいえるエリアだが、然程開けたところではない。
けれど、下町というほど寂れているようでもなかった。
このあたりは住宅地と商業地の区分が少々曖昧になっている、エリアのようだ。
僕は、ナツの指定した最寄り駅から少々迷いながらも、スマートホンの地図を駆使して彼女の住む家へ向かった。
秋の夕暮れ時であり、歩くにはいい気候だ。
けれど、ありふれた街並みが続くその街は、さして散歩するのに楽しく感じさせる場所ではない。
そして、ようやく僕は彼女の住むビルを見出す。
それは古い城塞かと思うほど老朽化した、雑居ビルだった。
五階建てだけれど、エレベータとかはないようだ。
一階には、営業しているかどうか怪しげな喫茶店がある。
ビルの中には、色々な事務所があるようだけれど、個人の住居も混在しているふうだ。
ナツは、そんなビルの最上階にあるペントハウスに住んでいた。