046 「ナツは空を飛ぶことに対して、とても無邪気だ」
ナツは空を飛ぶことに対して、とても無邪気だった。
無理もないだろうと、思う。
何せ彼女は、レーダーにも赤外線にも探知されることは無かったし、夜であればその姿はスターライトスコープでも捉えることはできない。
そして、彼女のエンジンは原理がよく判らないけれど、ほぼ無音であることははっきりしていた。
ナツはその完璧に近いステルス性能を持った機体で、成層圏近くまで上昇して飛び回っていたんだ。
そりゃあ、見つかりっこないだろう。
そう、思っていたんだけれどね。
ナツをマークしていたのは、わたしだけでは無い。
カンパニーも、彼女をマークしていた。
ジョン・スミスは、カンパニーからすればアウトソーシングのエージェントである。
外注にまかすということは、それほど重要視していなかったということだ。
カネダは、いささか複雑な存在ではあるが、ナツは確かに真面目に相手をするべき存在とは思えなかった。
空を飛ぶ以外、何もしていなかったのだから。
けれど、カネダにとって彼女は重要な意味を持つ存在らしい。
そして、ジョン・スミスもまたそのことに気がつく。
決定的であったのは、カネダがナツに会ったことだ。
それで、ジョン・スミスはナツが鍵であることに気がつく。
カネダは、ナツに会うべきではなかったのかもしれない。
カネダには、幾つかの誤算があったようだ。
そのひとつが、カンパニーが積極的な行動にでないという、読みだった。
カネダにとっての決定的瞬間はもう少し先だったようで、カンパニーもそれを待つはずだと思っていたらしい。
でも、実際にはそうでは無かった。
だから、カネダはアクションをとることにしたようだ。
けれど、それは勝ち目の無い行動だった。
カネダは、最後にひと暴れをして姿をくらますことを、わたしに告げる。
その上で、ナツとアキオを保護するように頼まれた。
カネダの最後のアクションは、一方通行のものだ。
彼は、業界から足を洗うことにした。
全てを清算し、けりをつける。
わたしは、手を貸すことにした。
彼の持っていた兵器は、個人が扱うにはやっかいすぎるものだ。
けれど、どこかの組織に与えるのはもっとやっかいそうに思う。
全てを葬るという彼の出した結論は、わたしもそうすべきだろうと思えた。




