表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/77

044 「びっくりするくらいに平和な島国」

「味方だって?」

僕とナツは、呆れて目を見合わす。

凄みのある笑みを浮かべたおんなは踵を返し、カラシニコフに見える自動ライフルを構えたまま、走り出した。

「逃げたいんなら、ついておいで。出口に案内してやる」

おんなは背中ごしに、叫んだ。

ナツは、殆ど躊躇うことなくおんなの後ろに続いた。

僕も、慌てて後に続く。

「で、誰なんです、あなたは」

「言ったろう、リディア・リトヴァクだ」

僕は、ため息をつく。

まあ、名乗るつもりはないんだろうけれど、スターリングラードの白百合はまだジョン・スミスよりはましだと思う。

多少は、ウィットを感じられた。

僕らは暗い通路を、結構なペースで駆けつづける。

いくつかの鉄製の扉を、リディアが解錠して抜けた。

ナツは意外と平気そうだが、運動不足の僕としてはひどく息切れしてついていくのが精一杯だ。

30分ほど走ったあたりで、リディアが立ち止まる。

ナツは戸惑った顔をしたが、僕は膝をついて激しく喘ぐ。

少し、悪戯っぽくリディアは笑い、口に指をあてる。

ずん、と深いところで何かが響き、ごく微弱な揺れがきた。

「カネダのやつの仕掛けた爆弾は、ちゃんと作動したようだな」

リディアは楽しげに笑いながら、僕を見る。

「坊や、もう少しだ、死ぬ気で走れ」

なんとか立ち上がった僕を、ナツは馬鹿にしたような笑みを浮かべつつ見ている。

僕らは、もう30分ほど真っ直ぐな地下通路を走ることになった。

僕が限界に達し、倒れこみそうになったころ、リディアは突き当たりの扉を開く。

そこは、明るく大きなトンネルだった。

しかも、道路や照明がさっきまでの廃墟じみたところと違い、真新しい。

その景色に、僕は見覚えがあった。

「ここって、まさかアクアトンネル?」

「正解」

リディアは、笑って頷き路肩にハザートランプを点滅させて停めてあるワンボックスカーに向かって走る。

「乗りな」

リディアの言葉に促され、僕とナツはそのワンボックスカーに乗った。

車の後方は荷物積載用のオープンスペースになっており、ベンチ状の補助椅子がある。

僕とナツは、その補助椅子に座った。

リディアはカラシニコフを革ケースに収めると、無造作に床へ放り出す。

多分今は、深夜の最も車が少ない時間なんだろう。

時折トラックを見かけるだけのアクアラインを、ワンボックスカーは走り抜ける。

気がつくと、僕らは首都高速に乗っていた。

驚くべきことに、検問も無く、上空からステルスヘリコプターが降りてくる事もない。

リディアは、突然げらげら笑う。

「ま、びっくりするくらいに平和だね、この島国は」

横浜の街を遠くに見ながら、僕は苦笑いをしてリディアの言葉に頷く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ