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040 「この中は、ディラックの海になっている」

そうして、わたしたちはハルオに案内されて東京湾の地下にあるという、要塞研究所にたどり着いた。

なんていうか、潜水艦となった黒竜式の甲板から降りたその地下ドックは、不思議な場所だ。

廃墟のようでもあるし、自然の洞窟みたいにも感じる。

まあ、実際のところ、旧帝国軍が造った施設なんだったら廃墟と言って差し支えないんだろうなと思う。

夕暮れの薄暮があたりを支配していて、剥き出しの石で出来た天井はとても高い。

ちょっとした、コンサートホールくらいの広さがあるような気がする。

煉瓦を積み上げて造ったふうのアーチ上になった柱もあり、人工物らしい感じもあった。

わたしは少し、夢で見た情景を思い出す。

そう、フユカと一緒に下ったダンジョンみたいな場所も、こんな感じなのよね。

なんにしても、東京湾の地下にこんなものを造ってたなんて、驚きだ。

そして、さらに驚くことがおきることになる。

ハルオが、指をならす。

なんとなく気障な動作にわたしは笑ってしまったのだけれど、その後に起こったのは驚愕に値する出来事だった。

巨大な甲板にカタパルトを持つ潜水艦が、蒼白い光に包まれたかと思ったら、小さな両手で抱えられる程度の卵型になってしまったの。

うひゃあ、という感じだった。

アキオも、目を丸くしているところをみると、同じ気持ちらしい。

ハルオは海に浮かぶ、卵を拾い上げた。

それを事もなげに、小脇に抱える。

なんてことだと、思う。

アキオがたまりかねたように、口を開く。

「さっきの潜水艦が、その卵になったんですよね」

ハルオは、アキオに目を向ける。

「そうだ」

「一体、あの潜水艦を構成していた質量は、どこにいったんですか」

ハルオは、鼻で笑った。

真面目に答えるほどの質問ではないと、言いたいらしい。

「この中は、ディラックの海になっている」

アキオは、言葉を失い呆然とハルオを見た。

ハルオは、どうでもいいといったふうにアキオを見ている。

「ディラックの海に沈んだ物質は、波動関数として収縮する前の状態、つまり単なる場の性質へと還元される。その状態の物質には、質量が無い」

アキオはさらに何か問いたげだったが、ハルオは無視して歩き出した。

「生憎と、あまり無駄話をしている時間はない。さっさと用事を片付けるぞ」

わたしとアキオは、ハルオの後に続く。


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