004 「人生は、ロシアンルーレット」
人生というものは、ロシアンルーレットだ。
わたしはいつも、そう思っている。
もし目の前に扉があれば、とりあえず開いてみるだろう。
その先がどこに繋がっているかなんて、考えても仕方ない。
もし目の前に道があれば、まずはそこを歩いてみる。
その先が天国であろうと、地獄であろうと、どちらでもかまわない。
ここではないどこか、そこへ行けることが大切なことなのよね。
だから、もし拳銃が道端に落ちていれば、拾って撃ってみるの。
どうなるかなんて、考えたってしかたないじゃない。
そこにはきっと、戦慄的な世界が待ち受けている。
わたしは、いつもそう思っていた。
そして、わたしが会うことにしたそのおとこの子こそ、道端で見つけた拳銃。
わたしは、そう思っているの。
おとこの子って言っても、三十手前のおとこのひとなんだけれどね。
そのひとは、謎なひとだ。
なぜなら、彼は信じているみたいだから。
わたしが、空を飛ぶことができるということを。
まあ、普通はそんなことを呟いていたとしても、詩的な表現だとか比喩的なことだとか思うじゃない。
でも彼は、わたしが空が飛べると信じているらしい。
危ういと、思う。
とっても危ういし、怪しくもある。
それだけで、わたしには会ってみるのに十分な理由となった。
わたしは、知りたかったの。
わたしが何ものであり、なぜ空を飛ぶことができるのかということを。
何しろ、わたし自身まだ自分が空を飛べるということが信じがたい、ありえないことだと思っている。
わたしですら信じていないことを、彼は信じているらしい。
一体どこからそんな確信を得たんだか、見当もつかなかった。
彼の名前は、アキオ。
トオノ・アキオと名乗っていた。
4年間ずっと、引きこもっていたそうだ。
まあ、わたしも似たようなものなのだけれど。
アキオは、わたしを尋ねてくることにした。
4年間、ずっと閉ざされていた扉を自分の手で開いて。
不安と期待、そのふたつが並んで輪になって踊っているような気がする。
彼は、扉を開いたけれどわたしもまた扉を開いたような気がしていた。
それは、常軌を逸した世界に繋がる扉に違いない。