039 「餓鬼が調子にのれば、痛い目にあうってのがこの業界の鉄則」
アラパホ船の艦橋は、炎に包まれている。
所詮、アラパホ船は輸送船をベースにした航空支援艦でしかない。
本物の軍艦が持つ堅牢性は、望むべくもなかった。
言ってしまえば、ハリボテみたいなものだ。
草臥れた顔をして炎上する船を見るスミスに、おれは笑みを投げかける。
「これでお前、船を失った責任をとるためにこの極東任務を解任されて、国へ帰れるんじゃないか? スミス」
スミスは、特に表情を変えずおれを見た。
「アシュケナジムに故郷はない。そんなことより、餓鬼が調子にのれば、痛い目にあうってのがこの業界の鉄則だ。お前も、例外ではないぞ、カネダ」
おれは、苦笑する。
「らしくないぜ、負け犬の遠吠えかよ」
おれは、海を指差した。
黒竜式百一号は、巨体を流れるような動作で反転させ、海に飛び込む。
大きな波がおこり、アラパホ船がゆらりと揺れた。
海上に、伊四百型潜水艦に変形した黒竜式が浮上する。
おれは、ナツに向かって叫ぶ。
「おいナツ、おれと一緒にこい!」
相変わらず挑むような目でおれを見ていたナツは、それでも頷いてみせる。
おれは、飛行形態に変形すると空へ上昇した。
ナツは、アキオに向かって叫ぶ。
「乗って、アキオ」
飛行形態へと変形したナツに、アキオが乗り込む。
下方ジェットを噴射し、ナツはおれを追尾した。
おれたちは、後部甲板へと着艦する。
そして、ひとの姿へと戻った。
意外にも、スミスはおれたちに対して追撃を行なってこない。
まあ、アラパホ船から自分たちが脱出するのに精一杯、ということなんだろうと思う。
おれは、艦橋についたハッチから黒竜式の内部へと入る。
伊四百型は全長が122メートルもある、巨大な潜水艦だ。
それを模した黒竜式も、内部に広い居住区画をとれるだけのスペースがある。
おれたちは黒竜式が東京湾の底へ潜航していくのを感じながら、居住区画へと入った。
「で、どこへ行くの?」
ナツの言葉に、おれは答える。
「東京湾の地下にある、要塞研究所だ」




