038 「闇の中でさらに深い闇が、竜の形をとる」
僕はその怪物を見た瞬間、魅入られてしまった。
闇の中でさらに深い闇が、竜の形をとっている。
漆黒の竜は、金属が悲鳴をあげているような歌い声を夜に谺させた。
ロケットランチャーを持った兵士が、夜の竜へ向かって発射する。
一瞬あたりが真昼の明るさに包まれ、黒い竜が紅蓮の炎につつまれた。
しかし、その攻撃は全く効いていないようだ。
飛行甲板に穴が空き、そこからエリコン20ミリ機関砲が迫り上がってくる。
金属と火薬が奏でる凶悪なリズムが、夜の闇を貫いた。
竜は花火に包まれたように、爆裂と炎の中へと沈んでいく。
それを見ていたハルオが、哄笑した。
「一万メートルの深海で水圧に耐えられるだけの装甲を、黒竜式は持っている。そんなものは、役にたたないぞ」
ジョン・スミスが、さっと片手をあげた。
兵士たちは混乱していたようだが、攻撃をやめる。
エリコン20ミリ機関砲も、沈黙した。
夜の静寂が、戻ってくる。
スミスは、少しうんざりしたように言った。
「お前は、何がしたいんだカネダ。ガキじゃないんだから武器の自慢はやめて、さっさと交渉のテーブルにつけ」
ハルオは肉食獣の笑みを、顔にはりつけている。
「ジョン・スミス。お前、暇だろ」
スミスは、やれやれと首をふり肩をすくめる。
「極東の諜報戦後進国である島国にいるんだ、忙しかったら無能だぜ。スミス」
スミスは、鼻で笑いとりあわない。
ハルオは、楽しげだった。
「仕事を増やしてやるよ、スミス。この島国の海上保安庁に、上手く説明しとけ」
黒い竜が、突然大きく口を空けた。
驚くべきことに、口の奥は火山の火口となり真紅の炎が渦巻いている。
黒い竜の背中で、細かな稲光が走った。
竜の中で、巨大なエネルギーが膨らんでいくのを感じる。
夜明けの輝きが、竜の背びれに宿り薄紫に輝く。
「カネダ、海洋民族の末裔なら、不必要に海を汚すんじゃない」
スミスは教師の口調でハルオに語りかけたが、ハルオは傲岸な笑みを浮かべたままアラパホ船の艦橋を、指差した。
太陽が炸裂したようにあたりが真っ白な光に、つつまれた。
紅蓮の火柱が、竜の口からアラパホ船の艦橋へ向かってはしる。
船の艦橋は、一瞬にして消し飛んだ。
どうやら竜は、プラズマ砲を装備しているらしい。




