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037 「そして、空に向かって高らかに歌い上げる」

わたしとアキオは、ジョン・スミスに続いて部屋を出る。

とんでもなく、あたりは混乱していた。

大体、巨大地震がダース単位で襲いかかって来たような揺れが、続くんですもの。

三半規管が弱ければ、夕食を床にぶちまけてたわね。

蒼ざめて蹌踉めくアキオの手をひいて、わたしは船の中を走る。

兵士たちは右往左往するばかりで、わたしたちを制止するものなんていない。

突然何か遠いところで風が哭くような音が、轟いた。

なんだか無機質なところはあるけれど、こころの奥深いところを揺さぶるような音。

わたしは、アキオと目を見合わす。

何か、途轍もないことがはじまっている予感がして、わたしは少し震える。

でも、そんなことに関係なく、わたしは走り続けた。

わたしは、本能的な方向感覚を持ってるの。

だから、自分が異様な啼き声のような音がする方向へ向かっているという、確信が持てた。

外が近いように、思える。

銃声や、悲鳴も聞こえていた。

手を繋いだまま、わたしとアキオは外に出る。

夜空はビロードの天蓋となって、頭上を覆っていた。

その下に、そいつがいたの。

凶暴さと、崇高さを足し合わせて恐怖でコーティングしたような、怪物。

恐竜の姿はしていたけれど、わたしの知るどんな恐竜よりも巨大な気がする。

二足で立ち上がってるけれど、前足は太くて大きい。

尾は20メートル以上の長さが、あるような気がする。

背中には二列に並ぶ八枚の背びれが、あった。

6千万年の時を越えて蘇った、地上の暴君。

そいつが、広大な飛行甲板を支配しているの。

兵たちが、夢中になって自動ライフルを撃っているけれど、漆黒の恐竜は意に介していない。

そして、空に向かって高らかに歌い上げる。

自分が再び、世界に君臨することを知らしめるような叫び。

慟哭と、歓喜の歌が混ぜ合わさった、魅惑的な歌。

叫ぶ恐竜の足元には、ひとりのおとこが佇んでいる。

薄く嘲るような笑みを浮かべ、ライダースジャケットを纏ったおとこ、ハルオだ。

そして、その前にはジョン・スミスが対峙している。

「気がはやすぎるぞ、カネダ」

スミスは、揺れる甲板で仁王立ちになりながら叫ぶ。

「お前だって、ナツが記憶を取り戻したほうがいいだろうが」

ハルオは、愉快そうに笑う。

「そして全てをお前らに奪われるか? 冗談が下手すぎるぞ、スミス」


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