036 「怪物は夜空に吠え、地の底から響く歌で夜を満たす」
おれは飛行形態を解除して、甲板に降り立つ。
アラパホ船の甲板は大きく広い。
偽装コンテナが収容され剥き出しになっている飛行甲板は、フットボールの試合ができるのではないかと思うほどだ。
大きな船だけあって、揺れもさしてない。
おれは、夜の風に晒された甲板を艦橋に向かってゆっくりと歩く。
もう少し騒ぎになるかと思ったが、とても静かだ。
しかし、その静かさはすぐに破られることになった。
艦橋のほうから、兵士達が走ってくる。
BDUの上にホディアーマーを装備し、暗視ゴーグルが装着されたヘルメットを装備した、ものものしい姿の兵だ。
4人一組で4チーム、合計16名がおれを半円状に取り囲む。
夜の闇に、暗視ゴーグルの放つ明かりが鬼火の輝きを見せている。
彼らは、手にしたM4カービンをおれに向けていた。
おれは兵に向かって、声をかける。
「よお、サンフランシスコまで、乗せて言ってくれるかな?」
M4カービンのレーザーサイトをおれの胴にポイントした兵のひとりが、答えを返す。
「あいにくと、この船はトーキョー行きさ」
「ああ、アキハバラでもかまわないぜ」
おれは、歩みを止めず艦橋へ向かう。
兵は、鋭く言った。
「止まれ、行き先をアケローンの岸辺に変えることになるぞ」
無視して一歩踏み出した時、夜の闇を銃声が切り裂いた。
肩のあたりに、着弾する。
おれは甲板に、倒れた。
しかし、すぐに立ち上がる。
酸化黒鉄でコーティングしたおれのライダースジャケットは5.56ミリ程度の銃弾では、傷つけられない。
全く無傷で立ち上がったおれに、少し兵士たちは動揺した様子だ。
おれは、兵士たちに笑いかける。
「さあ、ショウのはじまりだ」
そういうと同時に、地鳴りのような音が海から響きはじめる。
夜の闇が密度を増し、低い声で歌っていた。
兵士たちの動揺が、深まっていく。
おれの背後で、轟音とともに海が盛り上がった。
巨大な滝となって甲板に流れ落ちてゆく海の中から、黒竜式百一号が姿を現す。
海底を潜航するときの伊四百型潜水艦の姿ではなく、本来のゴジラサウルスの形態に戻っている。
それは、暗黒の夢からこぼれ落ちた、怪物の姿であった。
星無き夜よりさらに深き闇を纏いし黒龍は、二本の前肢を甲板に突き頭を高らかに空へかがける。
黒竜式百一号は夜空に吠え、地の底から響く歌で夜を満たす。
6千万年の時を越えた夜の歌が、船を震わし空を渡っていった。
兵士たちは動揺を通り過ぎ、完全なパニックに陥っている。
M4カービンを、黒竜式百一号に向かって撃ちまくる兵士たちへおれは笑いながら叫んだ。
「止めとけ、5.56ミリは。せめて、エリコンの20ミリ砲を使えよ」




