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025 「ドイツロマン派が描く、ゲルマンの世界みたいな島」

わたしたちは、海辺から離れ陸地に向かったの。

星々が壮大な光の饗宴を演じる夜空の下、灰が降り積もったように白い地面を歩く。

フユカは子犬みたいに、あちこち走りまわったわ。

キラキラと金色の髪が、光の破片を振りまいていたの。

わたしの傍らで白い毛皮に被われたおとこのひとは、動く雪像みたいに歩く。

わたしはフユカという惑星を纏った恒星みたいに、白い砂地を歩いたの。

えっと、どこに向かってるかって。

それは、言葉では言い表せなかったんだけどね。

でも、わたしにはこころの底で判っていた。

わたしたちに、必要なものがここにはある。

それをなぜか、こころの深いところでわたしは知っていたの。

その土地は、小さな島らしいことをわたしは理解する。

そう、ちょうどアーノルド・ベックリンの絵であるじゃない。

死の島。

あんな感じの、島みたいな場所。

鬱蒼とした木々が、巨人のように立ち並ぶ。

それは、森というほどには多くない。

そしてその緑の巨人たちに囲まれて、白い廃墟があった。

うーん、ベックリンというよりは、フリードリヒの描く朽ち果てた教会が近いかも。

そんなドイツロマン派が描く、ゲルマンの世界みたいな島をわたしたちは歩く。

わたしたちは、地上で難破した船のような廃墟の前に、たどり着いたの。

フユカは走り回るのを止め、魅入られたように廃墟の中を覗き込む。

そこには、地下へと続く階段があった。

なんだか、不安になるような闇が地下には淀んでいたわ。

わたしの隣で、白いおとこのひとが呟くように言った。

「ここの底で、結晶体を見つけ出さないといけない」

わたしは、頷く。

なぜだか判らないけれど、おとこのひとが言うことが正しいのをわたしは知っていた。

わたしとフユカは、階段に向かって足を踏み出す。

佇んだままのおとこのひとに、わたしは声をかける。

(あなたは一緒に、行かないの?)

おとこのひとは、頷いた。

「僕はこの下には、入れない」

わたしは、その答えが返ってくることを知っていたらしい。

なんの驚きもなくその言葉を受け入れ、地下に足を踏み出す。

後ろから、声が追いかけてくる。

「赤い光が世界を満たす前に、君たちは戻ってくる必要がある」

そうね、とわたしはこころの中で思う。

そうできなければ、多分わたしたちは終わってしまう。

そういうこと、みたいね。


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