013 「金色に輝く月の中に影が見える」
わたしは、ビルの屋上に戻った。
全力疾走を終えたような、ある種爽快な疲労感を感じている。
アキオはこの飛行を、どう思ったんだろう。
そう思いながら、コックピットを覆うキャノピーを開く。
アキオが、コックピットから下りてくる。
わたしは、飛行機からひとの姿に戻った。
まあなんていうか、その感覚は服を脱ぎ捨てるって感じに近い。
でも、脱いだ服が残るわけじゃあないのよね。
飛行機の姿は、消え去っている。
多分、それは溶けてわたしの中に戻って行くんだろうと思う。
なんだか無茶苦茶な気もするんだけど、そうなんだから仕方がない。
わたしはアキオと向かい合うと、にっと笑いかける。
「ねぇ、どうだった? 空を飛ぶのは」
アキオは、少し蒼い顔をしている。
酔ったのかも、しれない。
ちょっと、無茶な飛び方をしすぎたかと反省する。
「まあ、なんていうか」
アキオは、乱れている息を整えながら話す。
「凄いな、凄いとしかいいようがない」
アキオは、混乱しているようだ。
多分、わたしと会うまで色々な想像をしていたのだろうけれど、体験したことはその全てを越えているんだろうと思う。
わたしにしたところで、自分の身におこっていることがなんだか理解できないんだもの。
見たところ、常識的なひとに見えるアキオが混乱してもしかたない。
「それと、気になっていることがひとつあるんだけれど」
アキオの眼差しが、少し遠くに向けられている。
わたしは、眉をよせた。
「何かしら」
アキオは、夜空を指差す。
「あれは、君の友達なのか?」
わたしはびっくりして、アキオの指差したほうを見た。
金色に輝く月の中に、影が見える。
それは、飛行機の姿をしていた。
わたしと同じ、F14を小型化した姿だ。
双発のジェットエンジンが、下方噴射を放ち減速しながらビルに接近している。
漆黒の飛行機が、ビルの屋上に着地しひとの姿に変化するのは、あっという間だった。
自分自身が変化できるから判るけれど、実に手慣れた着地と変化だ。
黒い人影がわたしの前に、立つ。
驚いて息を飲むわたしたちに、黒いおとこは野性的な笑みを浮かべた。
「よお、久しぶりだな、ナツ」




