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仔猫の動きはピタリと止まってしまい、仔猫の大きな目は蓮の顔を捉え、縫い止められたように凝視していた。
蓮を見て驚いている、というよりは、何かに惹きつけられているような。
「……ヘンな生き物だな。こんなののどこがカワイイっつーんだよ。
……なんだよ?」
首根っこを掴んで持ち上げた挙句、上から下まで眺めた結果の第一声がそれだった。
さっさと興味を失った蓮は何事もなかったように仔猫を下ろそうとするが、仔猫の目が自分に向いていることに気付いて怪訝な顔をする。
仔猫は首根っこを掴まれてブラブラしてる状態でも構わず、ニャーニャーとか細く鳴きながら何度か蓮の顔の方へ前足を伸ばした。
引っ掻こうとしているわけではなさそうだ。
蓮の何が仔猫を魅了しているのか千夏にもさっぱり分からないが、とりあえず蓮が羨ましい気持ちを抑え込んで蓮の顔を見る。
そこでようやくその原因に気づいた。
蓮の左側の少し長めな横髪の隙間から覗く、キラリと金属特有の光を放ち、動きに合わせてユラユラ揺れる5センチくらいのそれだ。
「あっ、ねこじゃらし……」
「は?」
「この仔、蓮のイヤリングをねこじゃらしだと思ってるのかも。」
「ねこじゃらし……って、なんd…いって…!」
いい加減解放されたかったようで、とうとう蓮の手を引っ掻いてブラブラ状態から脱出したようだ。
ようやく地面に下りれたものの、まだ蓮のイヤリングに興味を惹きつけられているのか、蓮の前で立ったり座ったりを繰り返している。
千夏には思わず叫びたくなるほど可愛らしい姿なのだが、蓮はとてもうっとうしそうだ。
しかし何度仔猫に近寄られようと手で軽く押しやる程度で存外な扱いはしなかった。
まるで融通の効かない子供の扱いに困っているかのように。
もしかしたら、この仔猫が惹きつけられているのはイヤリングのせいだけではないのかもしれない。
とか言ってみたら、またこの2人に馬鹿やら能天気やらお気楽やら罵られるに決まっているが。
でも、何でも頭で考えられるようになった「人間」には分からない事を、この2つの種族は無意識のうちに共鳴しているのではないだろうか。
……考え過ぎかな。
「……むぐっ……!?」
考えふけっていた千夏の耳に、くぐもった蓮の声が聞こえた。
ハッと我に帰って蓮のほうを見やったが――――、
千夏の視界に映ったのは、端整な横顔ではなく、柔らかそうな茶色いモコモコの物体だった。
ちょうど蓮のだろうと思わしき顎の辺りで、ブンブン揺れている茶色いモコモコの長い尻尾が、千夏に何が起こったのかを言葉無くとも教えてくれた。
そして理解できた時には堪える暇もなく、千夏と悠理同時に腹を抱えて笑っていた。
それからというもの、その茶毛の仔猫は相当蓮が――正確には蓮の付けているイヤリングが――気に入ったらしく、どこからともなく現れては、蓮の顔目掛けて飛びかかるようになったという。
命を狙われているわけでもなくただ付き纏わられる側の蓮は、対処する方法も思い付かず、朝から夜まで常に仔猫を警戒せねばならないという、可愛らしい悩みを背負うことになってしまったんだとか。
【 了 】