ぼくと神様
「ねえねえ、神様っているのかな?」とぼくはいつものように公園のベンチに座って、隣に座っている彼女にたずねる。
そうすると彼女はいつものように、
「なにいっているの。いるに決まっているじゃない」とこたえる。
「どうして?」とぼくはもういちどきく。
「決まっているじゃない、いるからいるのよ」と彼女はあきれたように言う。
「そっか、神様っているんだね」とそうしていつものように僕はうなづく。
「じゃあさ、なんで空って毎日いろんな色に変わるの?」
あお、あか、みどり、きいろ、その前の日はどんな色だったっけ、つぶやきながら聞く。
「決まっているじゃない、そんなの神様の気まぐれよ、気まぐれ」
「そっか、てきとうだね」とぼくは納得。
「だいたいそんなものよ」と彼女はあきれたようにいう。
「じゃあ、なんで雨ってあんなにはちみつみたいに甘いの?」
だから雨の日は大好きなんだけどね、僕はにこっと笑いながら聞く。
「決まっているじゃない、神様は甘いものが大好きだもの」
「ふーん、じゃあ、ぼくと同じだね」
「そう、あなたと同じよ」
そっか、神様ってあまいものが大好きだったんだ。こんど、あまいものを食べるとき、神様の分とっておいてあげようかな。
「じゃあじゃあ、なんで家はあるくの?」とぼくはきく。ぼくたちの住んでいる家はふしぎだけど、勝手に歩きだしちゃうんだよね。
「決まっているじゃない、便利だからよ。神様が歩かなくても、いろんな場所に行けるように」
「そっかー、でもぼくも毎日いろんな景色がみれていいなって思ってたんだ」
「よかったじゃない」
「そうよかったよ」
毎日毎日がいろんな場所ではじまって、退屈しないんだ。
「でも、そっかー神様って本当にいるんだね」
「いるに決まっているじゃない、当たり前よ」
「でも、明日も神様いるかどうか分からないよ」
もしかしたら明日は今日と同じ空の色かもしれない。次にふる雨はあまくないかもしれない。家はもう動かないかもしれない。
「ぼく、神様が死んじゃわないか、心配なんだ。だってあした起きたら神様死んじゃってるかも」と今日はじめていつも思ってた心配事を口に出した。
「だから、いつもいつも神様がいるかどうか聞いてきたのね」と納得するようにいう。
「ばかね、そんな心配なんてしなくていいのに」とため息をつきながら彼女は答える。
「だって、神様は死なないもの」
「なんで?」とぼくはいつものようにきく。
そうすると彼女は「決まってるじゃない」と言いながらぼくの方を向いて、
「神様だからよ」とにこっと笑顔で答えた。
「そっか、神様は死なないんだね」
「そうよ」
「よかった、明日も明後日もずっと神様はいるんだね」
「決まっているじゃない」
よかった、僕かみさまのこと大好きだから死んじゃいやだから、よかった。
「ねえねえ、じゃあさ……」
「なに、まだ聞きたいことあるの?」
「うん、あのさ、なんでかみさまのこといろいろ知っているの?」
ぼく、ふしぎでしょうがないんだよね。ぼくは神様のこと全然知らないのに、なんでそんなにいろんなこと知っているのかって。
「知っているから、知っているのよ、とわたしは答えられるんだけど、この場合はもう少し違う言い方をしましょうか」と彼女は前置きをして、少し深呼吸する。
そして、何か大事なことを言うようにして静かに口を開く。
「わたしが神様のことを知っているのは……私が神様だからよ」と横目でぼくのほうを見て言う。
「ほんと?」と僕は心臓をドキドキさせてきく。本当だったら、すごい。だって、ぼく神様のこと大好きできっと仲良くできるって思ってたから。
「どう、おどろいた?」
「うん、おどろいた」
だって、それってすごいことじゃないか。
「そう、よかった。あなたを少しでもびっくりさせることができて。……うそよ、うそ」
「え……?」
「ごめんなさいね。さっきの、私が神様だっていうこと。あれあなたをびっくりさせるためのうそだったの」
「なぁんだ、ウソなんだ」とちょぴっとがっかりするぼく。
「当たり前じゃない、神様は人前に姿をあらわさないもの」
「そっかー、そうだよね」
続けて「当たり前だよね」って彼女の言葉を反復。
「じゃあさ……」って彼女にまた聞きたいことがあって、聞こうとしたとき、ぼくのお腹がぐぅって音を鳴らした。
「お腹すいた……」と僕はいう。
「そうね、かえってごはんでも食べましょうか」と言って、ベンチから立ち上がって歩き出す。
「うん、そうする。だけどさ、ちょっとさみしいよね」と僕は彼女のあとを歩きながらそう言う。
「どうして?」
「だって、ここにはぼくたち二人しかいないんだよ」
「そうね、わたしたちしかいないわ。わたしたち二人だけの世界ね」
「なんで、ここには僕たち二人しかいないんだろう?」
「そんなの……決まっているじゃない」と彼女は答える。
「わたしはあなたが大好きだからよ」
「そっかー、ぼくも大好きだよ」と答える。
「ありがとう」と彼女が笑いながらお礼をいう。どういたしまして、ぼくは心の中でいう。
「今日のごはんはなにかな?」とぼくがきき、「そうね、なにがいい?」と彼女は僕にきく。「あまいものがいいな」「だめよ、ちゃんと栄養のあるものでなければ」
ぼくたちはそうやって話し続けて、いつもどおりの毎日を過ごす。
だけど、ぼくは知っている。ここにはさびしがりやの神様がいて、ぼくをよろこばせようとしてくれていること。
ぼくはそんな神様が大好きで、大好きだ。だから、本当は二人きりでもさみしくなんかないし、きっとぼくはこれからもずっとこの神様のとなりにいる。
そして、毎日いうんだ。
「神様っているのかな?」って。




