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安息の地  作者: 月夜見
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忌まわしい記憶 #8


僕は人間なのか・・・?


 いつも考えていた。なぜ訓練どおりにできてしまうのか。なぜ人を殺してしまうのか。ジンマーマン教官はあの時、そう、フランクを殺した時僕に言った。

 「誰かを護るためには他人を殺す必要がでてくる。いつか必ず」

 彼の言うとおりだった。自分を嫌悪した。単なる戦闘マシーンなんじゃないかと、ただの人殺しの道具でしかないのじゃないかと、そう自分を疑っていた。自分が、そういう人間とも言えない存在になってしまったのではないかと思っていた。


 そんな時に、あの事件が起きた。

 薫がいつものように家に来て、兄貴に勉強を見てもらっていた。勉強が終わった後、彼女は背伸びしながら呟くように言った。

 「今日はどこかに、一人で行ってみるとするかな」

 偶然それを耳にした。心配だった。彼女は方向音痴で、しかも目立つ。今まで生きているのが不思議なくらいだった。

 護るべき家族が大事な友人だと言う人たちの愛娘。そしてとても美しくて、僕の心を掴んで離さない、大事な薫。

 どうしても護りたかった。彼女を。家族と同じように。僕がどんなにつらく、苦しんでいるとしても、どんな犠牲を周囲に強いることになっても。彼女を護りたかった。

 彼女は、付いていくと言ったのをとても嫌がった。最後にはかなり不満そうだったが、ガードするのを認めてくれた。

 表通りを彼女は楽しそうに歩いていた。礼拝の時間には、周囲と同じような真似をしていた。そんな時でも、周囲の状況確認と警戒をした。彼女の方を見るとなにやら周りの真似をすること自体も楽しげだった。

 夕暮れが近かった。突然彼女は人ごみにまぎれて走り出した。大人たちに囲まれた僕からは良く見えず、見失ってしまった。

 しまった。逃げ出すとは思ってもいなかった。ガードをしている僕から。今まで彼女を護るために何人も殺してきた僕から。

 慌てて彼女のあとを追った。彼女は人の多い表通りよりも、人の少ない裏通りを好んでいたから、多分裏通りに逃げただろう。そう考えた。

 裏通りにまわり、走って彼女の姿を探した。裏通りにはいつもよりも人の姿があった。彼女の姿は見えなかった。

 この街は、敬虔なイスラム教徒がほとんどで、彼らは、いくら目立つ外国人でも、好奇の目で見ることはあっても危害を加えようとはしなかった。もし危害を加えるとすれば、彼らの神を冒涜したときだ。いつも彼らの神を尊重し、絶対に冒涜することだけは避けていた。

 それでも、裏通りは無法地帯だった。以前に六人を撃ち殺したときも、何も起こらなかった。周囲から攻撃されることも無かった。もちろん、警察だって来なかった。警察が機能していたかどうかも怪しいが。

 どのくらい走っただろう。裏通りに面した路地の奥の方から、彼女の悲鳴が聞こえてきた。

 薫は男たちに迫られていた。迫られていたということは、男たちが何人かで彼女を犯そうとしていたということだ。ナイフで彼女を脅していた。

 たどり着いたとき、彼女は腰を抜かしていた。彼女に奴らの手が伸びようとしていた。また彼女の悲鳴が聞こえた。

 走って彼らの後ろから近づいた。何も考えていなかった。訓練所で何度もやらされた動作、身体が覚えるまでやらされた動作、そう、ハンドガンを抜き相手に向けトリガーを引く。その一連の動作を流れるように、自然とやっていた。

 グロックを男たち五人に向け、順番にトリガーを引いていた。狙いもしなかった。でも、手前にいた二人の頭部に弾丸は命中し、彼らは即死した。残りの弾丸は、彼女の近くにいた三人の胸部に命中していた。

 いつもグロックのマガジンに、貫通力の弱い、マッシュルーミング(弾が当たったときに変形することだ)の大きいホローポイント弾のカートリッジを込めていた。僕のグロック17では九ミリ弾しか使えず、非力な九ミリ弾で十分なストッピング・パワー(殺傷能力のことだ)を得るために、いつもグロックにホローポイント弾のカートリッジを組み合わせていた。

 期待通りに、三人の胸部からは弾丸は貫通せずに、彼らの肺や心臓をめちゃめちゃにしていた。

 彼女に弾丸は当たっていなかった。もちろん、人数分しかトリガーを引かなかったから流れ弾なんて有り得なかった。頭を吹き飛ばされた二人の死体は、彼女からは見えない位置に倒れていた。

 まだ残り三人には息があった。そいつらを放っておくことにした。いずれにしてもすぐに死ぬ。警察が来ないのと同様に、救急車も来ない。

 腰を抜かしている薫のヴェールを、彼女の目の下まで隠れるように引っ張り下ろした。グロックはそのままベルトに無造作に突っ込んだ。そして彼女の手を引いて立ち上がらせ、彼女を抱き上げて路地を出た。彼女の足が死んだ男たちに触れないように、彼女を抱き上げたままで。

 薫は震えていた。メイン・ストリートまで彼女を抱きかかえたまま走った。そしてタクシーを止め、運転手に番地を言い、急げばチップを弾むと言った。

 運転手は僕の腹に見えるハンドガンのグリップを見てぎょっとしたが、チップ欲しさだろう、タクシーは飛ばし、あっという間に家に着いた。タクシーに乗っている間も彼女はずっと震えていた。

 家では母と彼女の母親が心配そうな顔をして待っていた。母親たちに事情をかいつまんで話し、トイレに行った。

 また吐いた。やっぱり胃液しか出てこなかった。胃が直接鷲掴みにされたように痛み、とても苦しかった。そして居間を通り、自室に閉じこもった。何も言わずに。



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