忌まわしい記憶 #4
残酷な描写があります。ご注意を。
「僕」の心に重たいものがどんどん溜まっていきます。
僕が殺したもう一人は、サイクスと言って、気の良い若い男だった。彼はナイフ同士のCQC訓練の最中に、何を考えたのか一瞬気を抜いていた。彼が気を抜いた瞬間に、僕のナイフが彼の心臓をえぐっていた。彼が気を抜いていなければ、当然のように防げたコースだった。
死体安置所へ彼が移されたあと、ジェームズは言った。
「なぜあんなコースにナイフを出した? あれではお前が死ぬことになったのかも知れんのだぞ? お前は死ぬわけにはいかんのだ! 考えろ! 最善の方法を! 確実に相手を制圧する方法を! マニュアルに頼るな! 考えつつナイフを出せ!」
その頃には、もう仲間を殺すことに慣れてしまっていた。とても悲しいことに。
「申し訳ありません、教官。今後気をつけます」
冷静に、そうジェームズに答えていた。でも、心の中は悲しく、つらい思いで一杯だった。
最後に殺したのは、リチャードというおじさんだった。結構気難しいところがあって、いつも人の輪から離れているような人だった。
その時、市街地での銃撃戦を想定した訓練を行っていた。神経質な人だったのに、その時はなぜか防護ヘルメットをきちんと着けていなかった。遮蔽物から遮蔽物へ、彼が移ろうとした瞬間に、彼の頭部を狙ってM4A1カービンのトリガーを引いていた。頭部であれば、防護ヘルメット(かなり防護に有効だった)が頭蓋への直撃を避ける。殺すことは無いと判断したからだ。
でも、でも彼の防護ヘルメットはその時彼の頭には、あるべき場所には無かった。移動する瞬間に後ろにずれてしまっていた。そして、そして僕の撃った弾は、彼の頭部を直撃し、彼は即死した。
今話したように、全部で訓練生を五人殺した。でも、実はもう一人殺しているんだ。それは、僕らを砂漠に放り出した、あのデュプレだ。彼の時は、要人暗殺のミッションだった。
僕らの分隊は、認められている作戦立案時間(いつも直前の一時間だった)に、二手に分けて攻撃することを決断していた。ビルとトーマスとボブの三人。そして僕一人。
分隊長のビルは、僕の狙撃の腕を異常な程に買っていて、三人が最初に襲撃して逃げようとするところを僕が狙撃する。もしくは狙撃してから襲撃するというプランを立てた。いわば臨機応変に対処する。この僕が。
要人役でデュプレが、防護ヘルメットと防弾ジャケット、そして要人であることを示す黄色いゼッケンをつけていた。彼は死んだり負傷したりして員数が足りない分隊の補充人員でもあった。
設定は、どこからか到着した要人を襲撃し暗殺する。いつも具体的な方法は訓練生に任されていて、作戦詳細をジンマーマンかジェームズに報告するだけだった。
車が走ってきた。完全防弾仕様のベントレー。一人で予想到着場所から五百メートルくらい離れた場所に隠れていた。隠れていたと言っても、訓練用の建物の屋上にいたのだけれど。
相手の分隊は、狙撃されることを予想していなかったらしい。彼らは襲撃予想範囲内の建物をクリアリングすることなんかしなかった。まあ、いずれにせよ五百メートル離れていたら狙撃予想距離の範囲外だ。
選んだのはドラグノフSVDセミ・オートマティック・スナイパー・ライフル。それに、標準で装備されたPSO―1(赤外線探知機能付だ)4倍スコープ。全長が僕の背丈より頭半分くらい短い程度で、とても長い。でも、5キログラムを切る重量は魅力だった。それに、ストック(肩を当てる部分のことだな)が少し短くて、ちょうど良かった。このスナイパー・ライフルを凄く気に入っていた。
ドラグノフの銃身を屋根の低い囲いに乗せ、プローン・ポジション(狙撃姿勢のことだな)をとった。そして、スコープを覗いた。デュプレは無用心に車から出てきたところだった。 仲間三人は、少し離れたところで車に乗って待機している。
あまりにもデュプレと彼の分隊の隊員が悠然としていたので、あっけに取られてしまった。まあ、それも一瞬のことだったけれど。
ドラグノフには七.六二ミリ×五四R弾を十発、マガジンに装てんしてあった。躊躇せずに、トリガーを引いた。頭部を狙ったが、五発も撃ったことが災いした。
グルーピング(弾が当たっている範囲のことだ)は間違いなかった。五発の弾丸は、彼の頭に集中して当たった。防護ヘルメットのほぼ同じ場所に当たった弾丸はそれを突き破り、その内の一発が、彼の頭蓋に当たっていた。彼は頭から血を噴出して倒れた。ほぼ即死だった。彼が血を出して倒れるのとほぼ同時に仲間が出て行った。そして残りの分隊員を襲撃した。彼らは腕や脚を打ち抜かれる程度で済んだ。
僕は教官まで殺したんだ。
順番で言うと、デュプレのほうを先に殺していた。
最後のリチャードおじさんの時に、僕は泣いた。
彼は神経質で、いつも気難しくて、自分にも他人にも厳しい人だった。だけど、僕にはいつも優しかった。
よく家族のことを話してくれた。故郷に残した家族のことを。そして彼自身のことを。彼は、この訓練期間が終われば母国で特殊部隊の隊長に昇進することが確実だった。彼には僕と同じくらいの子供がいた。写真を見せてもらった。可愛い女の子だった。
彼女のためにここに留まっているのだと言った。生き残る技術を身に着けるんだと、そう言っていた。
その年の離れた友人を、自分の手で、いくら事故とはいえ殺してしまった。殺したくは無かった。殺したくないから、殺したくなかったから、防護ヘルメットがあるべきところに銃弾を放ったんだ。自分に嫌気が差した。
もう仲間を殺したくない。仲間が死ぬところを見たくない。そう思って泣いた。
それから毎日泣いていた。シャワーを浴びながら。トイレにこもって。就寝時間に声を殺して。毎日泣いていた。でも、なぜかいつも涙は出なかった。




