辿り着いた場所 (終)
十二月二十日
まだ考えている。
あれから毎日のように薫を求めている。求め続けている。安心したかった。つらさや苦しみを癒して欲しかった。彼女を求めることで少しずつ癒されているような、なぜだかそんな気がしている。身勝手だとしか言いようがないけれど。
昼休み、屋上で寒さを我慢して煙草を吸っていた。そこへ村上がやってきた。
「お前、よくこんな寒いところにいられるなぁ」
しようがないだろ。煙草を吸えるのはここだけなんだから。
「まあな」
「ところで、決めたのか?」
「何をだ?」
「決まっているだろ。クリスマスプレゼントだよ。薫さんに何をあげるんだ?」
考えてなかったな。そんなこと。
「もう残り何日も無いぜ? 早く決めろよ」
「余計なお世話だ。で、お前は何をあげるんだ?」
参考に聞いてみよう。
「俺はな、祥子には指輪をあげようと思うんだ」
いつの間にかファースト・ネームで呼び捨てているぞ、こいつ。
「そうか。指輪か・・・。検討してみよう」
ずいぶん硬い返事だなぁ俺たち親友じゃなかったのかよ、と村上は不満を言っていたが、それを無視して考えることにした。
気持ち。感情。恭平さんが言ってくれた、気持ちを封じ込める必要は無いという言葉。恭平さんは僕がどんな人間であっても、そんなことをしなくても良いんだと言ってくれた。
薫が大事だ。苦しめたくない。危険な目にもあわせたくない。彼女を護りたい。そして求めている。恭平さんは、それが恋愛感情というものだと言った。
そうだ。もう正直に認めよう。薫が好きだ。愛している。初めて会ったときから。この思いは、今までつらさや苦しみに隠れていた。それでも、それでもこの気持ちはいつもそばにあったんだ。今までずっと。そう、薫と会えなかった時でも。他の女の子に興味が無かったのは薫へのこの気持ちがあったからだ。永遠にこの気持ちは続くだろう。たとえ僕がどんな人間であっても。いつか薫がもう僕を愛していないと言っても。
十二月二十四日
薫へのプレゼントを用意した。でもまだ渡していない。
今日は恭平さんが、自宅でパーティーを開くから来るようにと誘ってくれている。親しい友人だけで楽しく過ごそうと。でもなぜか女性同伴で、相手にあげるプレゼントを持って来る様にと言われた。電話でそう告げているときの、恭平さんの楽しそうな声がとても印象的だった。
参加者は少なかった。本当に近い友人だけだった。恭平さんと恭平さんの奥さん。片桐さんと彼女の許婚(かなり良い男だ。背も高く紳士的で、笑顔が素敵だった)。そう、恭平さんの家族。田代さんと美沙さん。そして、僕と薫。
食事をして、酒を飲み、シガーをふかした。そして、酒を飲んだ。
田代さんはなぜか緊張しているようだった。グラスを片手に田代さんに近寄り、聞いてみた。
「どうしたんです?」
「いやな、俺はこんな華やかな場所に来たことがあんまりねぇんでな。しかも創、美沙と一緒だぜ。あいつはいいとこのお嬢さんで、箱入りで育ったから場慣れしてるけどよ。俺と釣りあわねぇんじゃねぇかって・・・」
なんだ、そんなことか。大丈夫、お似合いですよ。
「お似合いのご夫婦だと思いますよ」
「本当か? 本当にそう思うか?」
「ええ、そうでなければ美沙さんは田代さんと一緒に、それもあんなに楽しそうに笑わないでしょう?」
田代さんは照れているのを隠すように、人差し指で鼻を掻いて美沙さんの方へ歩いていった。
「御堂君、どう? 楽しく過ごせているかしら?」
片桐さんに声をかけられた。もちろん、彼女の横には許婚が一緒だ。
「ああ、楽しんでいるよ。こんなに楽しいクリスマスは初めてだよ」
「紹介しておくわね。私の許婚で山崎雅彦さん。私たち近いうちに婚約しようと思っているの」
おいおい、ずいぶんと気が早くないか? 恭平さんがあんなに悩んでいたのに。でも、なんか、凄く幸せそうだぞ。お互いを見る目が熱っぽいぞ。そうか、彼女も恋をしているのだな。そして、彼に愛されているってことか。
「そうか、それはおめでとう」
「これも全部あなたのおかげよ。あの時助けてもらわなかったら、こんなに楽しくクリスマスを迎えることなんてできなかったと思うわ」
「今日が楽しいのは山崎さんのおかげだろ?」
冷やかしてやった。おいおい、また二人して顔を真っ赤にしているぞ。やってられないな。見てられないぜ、もう。
恭平さんからも声をかけられた。
「どうかね? 楽しんでくれているかね?」
「もちろんですよ。こんなに楽しい日は初めてだと思います」
「それは良かった。ところで、彼女にはもう告白したのかね?」
「・・・実はまだなんです。タイミングが掴めなくって。あと、まだ恭平さんにも田代さんにも言ってなかったんですけれど・・・」
自分の名前が僕の口から出たのを耳にしたのだろう。田代さんは美沙さんを放っておいてこっちへやってきた。
「なんだ、なんだ? おい創、水くせぇじゃねぇかよ。で、内緒話か?」
「まあ、それに近いかもしれません」
そう答えた。そして三人が顔を突き合せて小声で喋るような状態になってしまった。
「で、内緒の話とは何かね?」
恭平さんが聞いてきた。二人とも興味津々といった感じだ。恥ずかしいな。
「実は、薫とは許婚だったんです。薫がそうしたいって言ったのを親同士で認めたそうなんです」
「そりゃ、いつの話だ?」
「向こうにいた頃だそうですから、どうやらさきおととしあたりらしいんですが」
「でも、君はそんなこと一言も言ってくれなかったじゃないか」
恭平さんが不満そうに言ってきた。田代さんも頷いてそれに同意している。
「僕も知らなかったんです。両親はこのことについて僕に告げる前に死にましたし。僕が知ったのは、この前彼女の母親と大家夫婦に教えられてなんです」
「そうか・・・」
二人して同時に言わないでくれよ。いくら友人同士だって言ってもさ。
「じゃあ、さっさと言っちまうんだな。愛してます、ってよ」
「では、早速にでも言ってしまうことだ。自分の気持ちを正直に。愛していると」
だから二人して同時に似たようなことを言わないでくれよ。恥ずかしいじゃないか。
「でも、・・・。タイミングが・・・」
そう言うと、田代さんが元気付けるかのようにこう言った。
「ばかやろ。タイミングもヘチマも何もねぇ。決めるときゃ決めろ。男だろうが」
恭平さんは、田代さんの横で、いかにもその通りという顔で頷いている。
「わかりました。男は度胸、っていうやつで言います。好きだって。愛しているって」
「その意気だ」
だから、友人同士だからって同時に言わないでくれよ。
パーティーも終わりに近づいている様だ。最後にプレゼントを交換し合おうということになった。恭平さんと奥さん。片桐さんと山崎さん。田代さんと美沙さん。それぞれが相手を思いやった暖かい贈り物をしていた。順番に交換し合っていたので、残っているのは僕と薫になった。
少し恥ずかしかった。僕のプレゼントは、ダイヤモンドをちりばめた細い指輪。渡すときに手が少し震えた。そして、なぜだか思ってもいなかった言葉が出てきた。
「薫、今まで自分の気持ちがわからなかった。いや、自分の気持ちに気が付かない振りをしていたんだ。つらさや苦しさでそれを隠そうとしていた。でも、もうはっきりとわかっている。正直に言うよ。好きだ。大好きだ。愛している。最初に会ったときからずっと。愛しているよ」
「嬉しい。・・・願いが叶ったわ。私を好きになって欲しい、大好きって言って欲しい、愛しているって言って欲しいっていう願いが。好き。大好き。愛しているわ。最初に会ったときからずっと。愛しているわ」
そう言って、薫は泣きながら抱きついてきた。そしてキスしてきた。当然、唇に。
半分泣きながら、薫はプレゼントだと言って小箱を渡してきた。開けてみると、中にはクロム・ハーツのリングが入っていた。
「指輪の交換だな」
恭平さんがいたずらっぽく、冷やかすように、でも、とても優しく暖かく言った。
彼の言うとおり、指輪を交換した。薫は僕が選んだリングを気に入ってくれたようだ。お互いの薬指にはめたリング。彼女は自分の指にあるリングを見て嬉しそうに笑った。そして僕らはきつく抱き合い、またキスをした。
皆は、温かく見守ってくれている。冷やかしたり、茶化したりすることも無く。田代さんと恭平さんは暖かく微笑んでいて、山崎さんはなぜか何度も頷いていた。そして、皆涙ぐんでいた。
帰ってから、僕らはお互いを求め合った。愛し合っている二人として。僕らは融けてしまうように一つになった。
薫が僕にくれた、僕の薬指にあるクロム・ハーツには「フォーエヴァー」と刻んである。
ゲームをしているイメージで書いた作品です。
とにかくイメージを文字にする事に集中してしまい、支離滅裂な作品になってしまいました。
最後まで読んでいただいて感謝しております。
ご感想など、お聞かせください。 拝




