れんこん少女と露天風呂
初のお客様であり、どういうわけかよく夢の中に出てきていた男性がはれてれんこんの塔の住人となって数日、れんこん女子は、今日も空をぼーっと見つめながら妄想にふけっていました。
今日は一つやらなければならないことがあるのですが、それも上の空です。
「今日は回覧板、隣の塔に持っていかんとだめだぞ。」そう言われてやっともとの世界にもどってきた彼女だがまだまだぽかんとした様子。
「今日は、お前が塔を下りて届けにいったらどうだ?」その一言で彼女は完全に戻ってきました。
それもそのはず、れんこん女子にとって、回覧板を隣の塔に持っていく、という作業は数少ない彼との楽しい共同作業であったはずなのだから。
それを今日はお前一人でと言われて、何があったのか、私何かしてしまった?!ここでの私との生活になにか不満があるのかしら・・・と、あれよあれよとよろしくない方向への妄想を膨らませてしまい、一人で打ちひしがれてしまっているのは数か月一緒に暮らせばすぐにわかることです。
そしてその妄想がいやに逞しいからまた困ったもの。
彼はただ単に彼女の意識をこちらにもどすために言ってみただけだというのに。
もう泣きそうになっている彼女を見て彼はこれはまずいと思ったのでしょうか、「変な妄想はやめなさい、まったく。お前がずーっとぼーっとしてるから、こう言ったらもどってくるんじゃないかと思っただけだ。」そう言って頭をなでてやると安堵する彼女でした。
とりあえずひと段落ついたところで二人仲良く手足をつっぱってれんこんの穴を下りていき、いつものように回覧板を届け、塔に戻ってきたところ、なにやらいつもと様子がちがうのです。
窓を少し開けてみると、天から水らしきものが舞い降りて・・・というより降ってきているのが見えました。
これは・・・・いったい何なのか・・・。
「露天風呂にしませんか?!」いきなりそう言いだしたれんこん少女に面食らう男は、彼女が食卓やら、押し出し式のキッチンやらなんやら部屋にあるものを壁の押入れにせっせと収納しているのをただ見守ることしかできなのです。
猛烈なスピードで部屋をからにした彼女が天窓に手をかけた瞬間、空から塔にお湯が降り注いできました。
変な点で切り替えのはやいれんこん女子はせっせと服を脱ぎもうバスタオルを体に巻いているではないですか。
「はい、あなたもどうぞ!」手早くタオルを渡されてギョッとした様子の彼ですが、固まっている場合ではありません。
確かにこのままでは服ごとびしょ濡れになってしまう。
ここは彼女にならうのが得策のようです。
そうこうしているうちに溜まったお湯。
一連の流れについていくのが困難なこともあったが、こうして空を見ながら露天風呂に入っているとすべてがどうでもよくなる爽快感があるからなんとも不思議だ。たまにはこういうのもいいな、なんて思ってしまう彼でありました。
「きもちいいですねー!」
と嬉しそうに言う彼女の後ろには、いまだに湧き出るお湯とともに、とても綺麗な虹ができていましたとさ。