全てから追放された俺、スキル【追放】で逃げ切ったつもりの元凶を逆追放する
「今日限りで、お前をこのギルドから追放する」
豪華な装飾が施されたギルドマスターの部屋で、男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、一枚の書類を俺の目の前に叩きつけた。
男の名前はゼルタ。
人格や実力はゴミだけど、他人をハメる陰湿な悪知恵だけは天才的に働く男だ。
そして、かつての俺と同じパーティーの契約担当窓口であり、今はギルドの絶対的なトップに君臨している。
「……どういうことだ、ゼルタ。俺は今まで、お前の命令通りに動いてきたはずだ」
俺の絞り出すような声に、ゼルタは鼻で笑った。
「言葉通りの意味さ。お前は無能なんだよ。ろくな実績もないゴミを、いつまでもこの一流ギルドに置いておくわけがないだろう?」
『実績がない』
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の中にドス黒い怒りが湧き上がった。ゼルタが今その地位にいるのは、すべて俺の能力のおかげなのに。
俺の持つ固有スキル【追放】。
このスキルには重い制約がある。
一つは、無条件では発動せず、自分の「何かを追放される」ということでしかエネルギーが溜まらないこと。
そしてもう一つは、自分と何かしら「繋がり」がある対象にしか発動できないこと。
ゼルタは契約を担当した事で最初から知っていた。
だから、ホワイトで良い職場だった時のギルドで俺と契約を結び、後から俺の「大切なもの」を順番に追放していった。
俺と仲が良かった仲間、俺が苦労して手に入れた装備、俺のささやかな居場所。
それらが理不尽に追放されるたびに、俺のスキルには莫大な「追放エネルギー」がチャージされた。
そして、俺に命令して無理やりスキルを使わせていた。
自分の邪魔になるギルドの上層部や実力者たちを次々と組織から『追放』し、トップの座を盗み取ったのだ。
ゼルタ自身には、戦う実力も、組織を引っ張るカリスマ性もない。ただ他人を蹴落とすことだけに特化した、ただの器の小さい男だ。
だからこそ、周りからは恐れられ、嫌われている。
「お前はもう用済みなんだよ。それに……」
ゼルタの目が、冷酷に細められた。
「お前みたいな危険なチート能力を持つ奴を、いつまでも近くに置いておけるかよ。いつ俺が追放されるか分かったもんじゃないからな」
ゼルタが俺を追放した本当の理由。それは、俺の力が自分への脅威になるからだ。
だが、ゼルタは悪知恵だけは底知れない男だった。
俺のスキルの弱点である「繋がりがなければ追放できない」という条件を、完璧に逆手に取ってきたのだ。
「これで俺とお前の契約は完全に終了だ。ギルドの所属権も、冒険者としての資格も、すべて今この瞬間になくなった。つまり、俺とお前の『繋がり』はこの世界から完全に消滅したんだよ」
ゼルタは勝ち誇ったように大笑いした。繋がりが消えれば、俺はもうゼルタを追放できない。
ゼルタは完全な安全圏に立ったと確信し、心の底から安堵している。
だが、ゼルタの嫌がらせはこれだけでは終わらなかった。
「安心しろ。お前が二度と俺の目の前に現れないよう、最高のプレゼントを用意してやったからな」
ゼルタが突きつけてきたのは、ギルドからの追放だけではなかった。
俺の生きる居場所のすべてを、根こそぎ破壊するための悪魔の計画だった。
◇
ゼルタの部屋を出た俺を待っていたのは、想像を絶する地獄だった。
まずは、長年暮らしてきたお気に入りの宿屋だった。
受付の前に立つと、親しかったはずの主人が、見たこともないような冷たい目で俺を睨みつけてきた。
「悪いが、今すぐ荷物をまとめて出て行ってくれ。ギルドマスターのゼルタ様から通達があった。お前のような犯罪者まがいの無能を泊めていると知れたら、うちの店は明日から営業停止処分だそうだ。二度と敷居を跨ぐな!」
弁明の余地すらなかった。
ゼルタはギルドトップの権力を使い、俺が「無能で犯罪を犯した」という嘘の悪評を、街のすみずみまで一瞬で流したのだ。
次に、いつも命を預ける武器の手入れを頼んでいた馴染みの武器屋へ向かったが、結果は同じだった。
「お前に売る鉄屑はねえ! ギルドのブラックリストに載った奴に武器を渡したら、店が潰されるんだ。さっさと失せろ!」
冒険者ギルド。宿屋。武器屋。俺がこの街で生きていくための「居場所」が、ドミノ倒しのように次々と音を立てて消滅していく。
どこを歩いても、街の住人たちから不潔なものを見るような視線が刺さった。
そして、最後に突きつけられたのが、最大の絶望だった。
街の門番たちが、俺の前に槍を交差させて行く手を阻んだ。その手には、ギルドマスターのサインが記された、公式の『街からの追放命令書』が握られていた。
「セイラ! お前をこの街から永久に追放する! 本日中に街の外へ出なければ、不法侵入者として即座に投獄する!」
頭の中が真っ白になった。この街は、俺が生まれ育った故郷だ。
親の顔も知らない俺を育ててくれた、大切な人たちがいる場所。
美しい景色。
ささやかな思い出。
俺の人生の根っ子そのものだった。
それを、あの男は自分の保身のためだけに、虫ケラを払うように平気で踏みにじり、俺から奪い去ったのだ。
(ああ……終わった。俺には、もう何も残っていない)
街の門へ向かってトボトボと歩きながら、俺の胸の奥で、何かがカチリと音を立てた。体の中心にある固有スキル【追放】のバッテリーが、見たこともないほど禍々しく、真っ赤な輝きを放ち始める。
ギルドからの追放。宿屋からの追放。武器屋からの追放。そして、生まれ育った故郷からの永久追放。
これ以上ない最悪の『追放劇』を連続で喰らったことで、俺の体内には、一国を跡形もなく滅ぼせるほどの、天文学的な量の「追放エネルギー」が限界を超えて満タンにチャージされていた。
エネルギーは、もう溢れんばかりに煮え繰り返っている。
「あとは、消えかけた最後の『繋がり』を利用するだけだ」
「ゼルタ……お前は俺からすべてを奪って、繋がりを消したつもりだろう」
夕日に染まる故郷の街並みを振り返り、俺は低く呟いた。
あのバカなゼルタは、俺を街から叩き出せば安全圏へ逃げ切れると安堵している。
だが、あいつは決定的な「バグ」に気づいていない。俺は街を出る直前、一歩を引き返し、奴が待ち構える場所へと向かった。
◇
俺はフードを深く被り、再び冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
一歩中に入った瞬間、かつての活気は消え失せ、どんよりとした嫌な空気が漂っているのが分かった。
受付嬢たちは疲れ果てた顔で書類を処理し、大広間にいる冒険者たちは、お互いを値踏みするようなギスギスした視線を交わしている。
「おい、聞いたか? またゼルタ様の命令で、有能なベテランパーティーが追放されたらしいぞ」
「ああ、ゼルタ様に少しでも意見する奴はみんなハメられて消される。今のギルドは、ゼルタ様におべっかを使うだけの無能な奴らばかりが優遇されてるんだ」
冒険者たちのひそひそ話が耳に届く。
ゼルタが契約担当の窓口からトップに居座って以来、このギルドは急速に腐敗していった。
ゼルタは自分より優秀な者を恐れ、俺の【追放】の力を悪用して上層部を全員蹴落とした。
その結果、組織をまともに運営できる者がいなくなり、中身のないバカのせいでギルドは中から完全に腐り始めていた。
最初は本当に良い職場に見えたのだ。誰もが笑い合い、助け合う理想のギルドだと信じていた。だからこそ、俺はあの契約書にサインをした。
だが、すべてはゼルタが仕組んだ、俺のチート能力を独占するための罠だったのだ。
俺は静かに歩を進め、大広間の奥、ギルドマスター室へと続く階段を見上げた。
体内の【追放】のバッテリーは、限界まで充填されたエネルギーのせいで今も熱く脈打っている。
(待っていろ、ゼルタ)
今、ゼルタは人生で一番安心しているはずだ。
なぜなら、俺のスキルの弱点である「自分と繋がりがあるものしか追放できない」という制約を、奴は知っているからだ。
俺をギルドから、宿屋から、そして生まれ育った故郷の街から完全に追い出すことで、ゼルタは俺との直接的な関係をすべて切ったと思い込んでいる。
「繋がりが消えれば、俺が追放される心配はなくなる」
そうやって、高い席の上で今頃は安堵の溜息を漏らしているに違いない。
ただ無造作に、遠くからボタン一つで奴を消し去るような能力なら、何の緊張感も生まれなかっただろう。
この重い制約があるからこそ、最後の逆転劇は極上のフルコースになる。俺は階段を上り、ギルドマスター室の大きな扉の前に立った。
中にいるのは、かつて同じパーティーの仲間だったはずの、しかし今はすべてを奪っていった冷酷な裏切り者。
俺はゆっくりと手を伸ばし、扉を押し開けた。
「……何しに来た、セイラ」
部屋の奥、豪華な椅子に深々と腰掛けたゼルタが、不快そうに顔を歪めて俺を睨みつけた。
◇
「往生際が悪いぞ、セイラ。まだこの街にしがみついていたのか」
ゼルタは机に両肘を突き、組んだ指の隙間から俺を冷酷に見下ろした。
その顔には、絶対的な権力を手に入れた者特有の、醜い余裕が張り付いている。
「おいおい、そんなボロ布みたいなフードを被って、最後の命乞いにでも来たのか? 無駄だと言ったはずだ。お前の席も、家も、この故郷での居場所も、すべて俺が公式に消し去ってやったんだからな」
ゼルタの言う通りだった。
実績もないくせにギルドの契約担当という立場だけを利用し、上を蹴落としてトップに立ったバカ。
だが、そのバカの浅知恵のおかげで、俺の「追放エネルギー」は今や国を揺るがすレベルでチャージされている。
俺は無言のまま、ゆっくりとゼルタの机へと近づいた。
「おい、それ以上近づくな。ゴミの匂いが移るだろうが」
ゼルタは鼻を鳴らし、引き出しから一通の書類と、数枚の薄汚れた銅貨を掴み出すと、俺の足元へと乱暴に投げ捨てた。
「ほら、手切れ金だ。それと、これが俺の最高権力で発行した『故郷からの永久追放命令書』の控えだ。お前が二度とこの街の門を潜れないよう、俺自身の魔力署名をバチッと刻んでおいてやったよ」
『ヒラリッ』
と書類が俺の靴に当たって止まる。
その書類の一番上には、ゼルタの醜い文字で、確かに奴の魔力が込められた署名がデカデカと刻まれていた。
「これでお前と俺を繋ぐものは何一つなくなった。お前の【追放】スキルは、自分と繋がりがあるものしか対象にできない欠陥品だ。だが、今の俺はお前をすべてから切り離した。つまり、俺はお前に対して完全な無敵、神の領域に立ったんだよ!」
ゼルタは椅子に背たれを預け、天井を仰いで大笑いした。自分が追放される脅威が完全に消え去ったと思い込み、底の浅い安堵に浸っている。
だが、このバカは気づいていない。カタルシスを最高のものにするための、最大の「バグ」に。俺は足元の書類を拾い上げ、その魔力署名に直接、右手の指先を深く触れ合わせた。
瞬間、俺の脳内でスキルのシステム音が激しく鳴り響いた。
――『制約:対象との直接的な繋がり(関わり)』
を検知。条件、完全クリア――
「……ゼルタ。お前は俺からすべてを奪って、繋がりを消したつもりだろう」
俺はフードを払い、ゼルタの目を真っ正面から見据えた。
「何……?」ゼルタの笑いがピタリと止まる。
「お前は俺を、生まれ育った大切な故郷から平気で追放した。……だがな、その『故郷からの追放命令』の書類に、一番上にデカデカとサインをして、俺の人生に深く関わってきた担当者は……お前自身だろ?」
ゼルタが保身のために行った最悪の追放劇。その公式な命令書に刻まれた奴のサインそのものが、今、俺とゼルタを最も強固に結びつける
「最後の、そして最大の繋がり」
として、完璧にリンクしたのだ。
「ひ、っ……!?」
ゼルタの顔から、一瞬で血の気が引いていった。
「ば、バカな……! 繋がりは切ったはずだ! お前と俺の関係はもう終わって――」
ガタガタと椅子を鳴らしながら、ゼルタが恐怖に顔を歪めて立ち上がる。
だが、もう遅い。
焦らしに焦らしたフルコースのメインディッシュは、今ここで最高の味となって奴の目の前に差し出される。
「スキル【追放】――発動」
俺が低く呟いた瞬間、体内のコアから抑えきれないほどの真っ赤な追放エネルギーが爆発的に噴き出した。
部屋の空気が一瞬で凍りつき、凄まじいプレッシャーがゼルタの全身を圧し潰す。
ギルドからの追放。宿屋からの追放。武器屋からの追放。そして、生まれ育った故郷からの永久追放。
俺がこれまでに味わわされた、すべての絶望の重みが、そっくりそのままゼルタ一人へと牙を剥く。
「お前は俺から故郷を、生きるすべてを奪ったな。だから、俺もお前から『すべて』を追放してやる」
俺が右手を突き出した瞬間、ゼルタが持っていたギルドマスターの魔力印章がバチバチと音を立てて砕け散った。
「が、あ、あぁぁ!? 俺の、俺のギルドマスターの権限が……消える……!?」
それだけではない。俺が発動した【追放】は、奴の肉体を消し去るような生ぬるいものではなかった。
ゼルタがこれまで主人公の力を盗んで蹴落としてきた
「過去のすべての不正、闇金の証拠、上層部をハメた契約書の改ざん記録」
そのものを、ギルドの最高機密アーカイブから、街全体、そして国へと一斉に追放(強制開示)したのだ。
『パリン、パリン!』
と、ギルドマスター室の窓ガラスが衝撃波で一斉に割れる。
その瞬間、大広間にいた冒険者たちの通信魔道具や、ギルドの掲示板に、ゼルタがこれまで行ってきた悪事のすべてが白日の下に晒された。
「おい、見ろ! ゼルタの野郎、やっぱり裏で金を動かして先輩たちをハメてやがったんだ!」
「実績ゼロのバカだと思ってたが、ここまで汚いクズだったとはな……!」
大広間から、地響きのような怒号と罵声が部屋の中まで響いてくる。
周りを蹴落としてトップに立ったからこそ、誰からも信頼されず、恐れられていたバカ。そのハリボテの権力基盤が、主人公がエネルギーの供給を止めたことで、一瞬にして音を立てて崩壊していく。
「ひ、あ、うそだ、嘘だろ……! 俺の地位が、俺の名誉が……! やめろ、セイラ! 頼む、止めてくれぇぇ!!」
ゼルタは床に膝をつき、無様に涙と鼻水を流して俺に縋りつこうとした。
だが、その汚い手が俺の服に触れる前に、最後の【追放】の波動が奴を直撃した。
ゼルタがこの世で最も執着していたギルドマスターの地位、利権、そして「この街での居場所」。そのすべてが、完全に、そして永久に奴の人生から追放されたのだ。
「ゼルタ! 貴様をギルドマスターの座から引きずり下ろし、国家反逆および詐欺の罪で即座に逮捕する!」
割れた扉から、ギルドの衛兵たちと、かつてゼルタにハメられて失脚していた本物の上層部たちが怒り狂って踏み込んできた。
「ち、違う! 俺は悪くない! 全部このセイラって奴のせいで――」
ゼルタは無様に床を這い回りながら言い訳を叫んだが、衛兵たちは容赦なく奴の細い腕を捻り上げ、冷たい鉄の錠前をハメた。
周りを恐怖で支配し、実績ゼロのままトップに君臨していた中身のないお飾りトップの末路は、あまりにもあっけなかった。
ゼルタが連行されていく大広間へ下りると、そこには街の住人や冒険者たちがすし詰めになって集まっていた。
宿屋の主人も、武器屋の店主も、全員がゼルタの不正の証拠を目にして、自分たちがどれほど愚かなバカに騙されていたかを理解していた。
「セイラ……すまなかった! 俺たちはゼルタの嘘に騙されて、お前を泥棒扱いして……!」
「街から追放するなんて命令、今すぐ白紙撤回だ! 頼むからこの街に残ってくれ!」
手のひらを返したように、街の住人たちが涙を流して俺に頭を下げてくる。その言葉を聞いた瞬間、俺の目から、じわリと熱いものが溢れそうになった。
ここは、俺が生まれ育った大切な故郷だ。
親の顔も知らない俺を育ててくれた、温かい人たちがいる場所。美しい夕日も、この騒がしいギルドの大広間も、すべてが俺の人生の根っ子だった。
ゼルタにすべてを奪われ、街を追放されそうになった時、俺は本当に、死ぬほど怖くて悲しかった。
この大切な場所を失いたくなかった。だから、彼らの「残ってくれ」という言葉は、俺の凍りついていた心を芯から溶かしていくようだった。
「……ありがとう。みんな」
俺は、心の底からの笑顔で答えた。
ゼルタという害悪が消え、街の悪評もすべて消え去った。俺を縛る理不尽な契約も、俺の生きる意味を邪魔するクズも、もうどこにも存在しない。
俺のチートスキル【追放】は、ゼルタの悪事を完全に追放し、俺の「大切な故郷での日常」を、その手にしっかりと奪い返してくれたのだ。
俺はギルドの仲間たちに肩を叩かれ、宿屋の主人や武器屋の店主から「今夜は奢りだ!」と笑顔で囲まれた。彼らの輪の中で、俺はポケットの中の数枚の銅貨に触れた。
ゼルタが投げ捨てた手切れ金。
だが今となっては、平和な故郷を取り戻した記念のメダルに見えた。
「おい、セイラ! 何ニヤニヤしてんだ、早くこっち来て乾杯しようぜ!」
「ああ、今行くよ」
仲間たちの呼ぶ声に向かって、俺はニヤリと嬉しそうに笑い、小さく呟いた。
「……ご馳走様」
極上のカタルシスを味わい尽くし、俺は一番恐れていた絶望を乗り越えた。
大好きなこの街で、俺の新しい「大切な日常」が、ここからまた新しく始まっていく。
【制作メモ】
本作は、作者が考案したプロット、設定、言葉遊びをベースに、AI(人工知能)と二人三脚で本文の執筆・調整を行って完成させました。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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