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時事ネタを小説で解説  作者: Miris


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1/8

時計は誰のもの?アメリカ議会と大統領と戦争

「未來さん、この5月1日って、何の締切なんですか」


三國純は、画面の見出しを指でなぞった。


『米国防長官、イラン撤収の法的期限「5月1日」は適用されず』


櫻未來は、すぐには答えなかった。


壁時計を見上げてから、静かに言った。


「戦争を続けていい時間の、ひとつの区切りです」


「戦争に、時間制限があるんですか」


「あります。少なくとも、議会の承認なしに続ける場合には」


「つまり、大統領が勝手に軍を出しても、ずっと続けてはいけない」


「そうです」


「それが5月1日」


「今回の記事では、そういう意味です」


純はノートに書いた。


『5月1日=戦争の時計が鳴る日』


「でも、国防長官は適用されないと言っています」


「停戦したからです」


「停戦したら、時計は止まるんですか」


「そこを議会が疑っています」


「法律に、停戦したら時計を止めていいと書いてあるか」


「はい」


純は少しだけ顔を上げた。


「なるほど。政権は、戦いが止まったから時計も止まったと言っている」


「はい」


「議会は、その停止ボタンは法律のどこにあるのか、と聞いている」


「その理解でいいです」


純は画面を見つめた。


「でも、政権側の言い分もわかる気がします」


「聞かせてください」


「停戦していても、軍を急に引いたら危ない。イランがまた動くかもしれない。海峡が不安定になれば、船も止まるかもしれない」


「その通りです」


「じゃあ、政権側は完全におかしいわけではない」


「おかしくありません。危機対応、抑止、海の安全。どれも現実の問題です」


「では、なぜ議会は疑うんですか」


未來は紅茶のカップを机に置いた。


「便利な理屈だからです」


「便利?」


「停戦したから時計は止まった。任務名を変えたから戦争ではない。防衛だから議会の承認はいらない。そう言えてしまうと、期限の意味が薄くなります」


純のペンが止まった。


「戦争を止めるための時計なのに」


「はい」


「止めたことにできる」


「そう疑われているのです」


雨が窓を叩いていた。


テレビの中では、公聴会の映像が流れている。


議員が書類を掲げ、国防長官に何かを問いかけていた。


純は音量を少し上げた。


『その根拠は、法律のどこにありますか』


純は小さく息を吐いた。


「今ので、ほとんどわかりました」


「何がですか」


「これは、アメリカの政権と議会が喧嘩しているだけじゃない」


「はい」


「戦争を続ける権限を、誰が見張るのかという話です」


「はい」


「でも、未來さん」


「何でしょう」


「それが日本の生活にどうつながるんですか」


未來は窓の外を見た。


夜の道路を、トラックのライトが流れていく。


「海峡が不安定になれば、船の動きが鈍ります」


「石油ですか」


「石油だけではありません。燃料、電気代、輸送費、保険料。遠い海の緊張は、値札になって店頭に来ます」


純は、ゆっくりノートに書いた。


『戦争は、爆発より先にレシートで来る』


未來が少し笑った。


「いい表現です」


「つまり、日本人が戦場にいなくても」


「影響は受けます」


「ガソリン代、電気代、弁当、配送費」


「はい」


「それが上がったとき、遠い国のニュースは遠いままではなくなる」


「そうです」


純は画面に向き直った。


「わかりました」


「何がですか」


「これは、イランから米軍が下がるかどうかだけの話ではない」


「はい」


「大統領が戦争の時計を止めていいのか」


「はい」


「議会がそれを見張れるのか」


「はい」


「そして、その時計が曖昧になると、軍事緊張が長引いて、日本の生活にも届く」


未來は静かにうなずいた。


「その通りです」


純は最後に一行を打った。


『時計は止まったのか。それとも、止まったことにされたのか。』


壁時計の針は、まだ動いていた。


この記事が参考としたもの

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN011JT0R00C26A5000000/

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