おにぎり屋ふくふく|クロのいた場所
掲載日:2026/04/04
夜のふくふく。
お店はもう閉まって、静かな時間が流れています。
ミケも、まぐろも、トラも、シロも、みんな丸くなって眠っています。
でも――
クロだけは、起きていました。
外の月を、じっと見ています。
しん、とした夜。
クロの目が、少しだけ細くなりました。
まるで、遠くを見ているように。
――どこかの路地。
――冷たい風。
――ひとりでいた時間。
ふくさんは、そっと隣に座りました。
「眠れないのかい?」
クロは、ゆっくりとふくさんを見ます。
「にゃ」
短い声。
ふくさんは、クロの頭をやさしくなでました。
「いろいろあったんだろうねぇ」
クロは、何も言いません。
でも、逃げませんでした。
そのまま、じっとしています。
ふくさんは、静かに続けます。
「ここはね、あったかい場所だよ」
「無理に話さなくてもいい」
「でも――ここにいていいんだよ」
クロのしっぽが、ゆっくり動きました。
ほんの少しだけ、ふくさんに体を寄せます。
ふくさんは、ふわりと笑いました。
「おや、めずらしいねぇ」
クロは、目を閉じます。
そのまま、静かに丸くなりました。
外の月は、やさしく光っています。
もう、ひとりではありませんでした。




