できない側の人間
初投稿です。
大学決まって時間ができたので書いてみました。
ゆるく読んでもらえると嬉しいです。
みんなが当たり前にできることが、俺にはできなかった。
魔法の実技の時間。
指先に魔力を集め、小さな火を灯す…それだけの課題だ。
「……次、レイ」
名前を呼ばれ、前に出る。
先生の解説を思い出しながら、今度こそと指先に意識を集中させる。
——何も、起きない。
「……また練習してきてね」
やはり、ダメだった。
視線を向けられている気がする。
哀れみなのか、それともただの気のせいか、自分には分からない。
休み時間になると、ライトが声をかけてきた。
「……あんま気にすんなって」
あいつはいいやつだ。
いつも感覚を教えてくれたり、「できそうな気配がある」なんて言ってくれる。
こんなに優しくしてくれるのに、何もできない俺。
——いや、違う。
ライトはできる側の人間だから、そんなことが言えるんだ。
そう思ってしまう自分に、また嫌気がさした。
「……まあ、レイよりはマシじゃん」
後ろの方で、そんな声が聞こえた。
どうやらこんな俺でも、誰かの希望くらいにはなれているらしい。…なんてな
結局、最終学年になっても、俺はずっと落ちこぼれのままだった。
最後までできるようになったのは、光魔法は指先にかすかな光が灯る程度。
水魔法も、三十分かけてコップに半分、水を溜められるくらい。
みんなが、入学して半年もしないうちにできるようになっていたことだ。
それでも義務教育だから、学校は卒業できる。
ほとんどのやつは高等学校に進学するらしいが、俺には無理だろう。
家族で話し合った結果、俺は農家をやってる祖父母の家に行くことになった。
もちろん、魔法が使えないから農業をやるわけじゃない。
体が弱くなってきた親戚の、手伝い程度だ。
その合間に魔法を勉強して、少しでもマシになればいいのだが……。
祖父母は、小さい頃から俺のことを可愛がってくれている。
農家も上手くいっていて、金に困っている様子もない。
——本当に、助かった。
けれど。
劣等生の孫を引き取るなんて、きっと気持ちのいい話ではないだろう。
だから、少しでも役に立たなければ。
そうして祖父母の家に来た俺は、家の裏に出て…思わず足を止めた。
そこに広がっていたのは、見たこともない景色だった。
風に揺れる葉の波。
空が、広い。
どこまでも続いているみたいで、目で追っても追いきれない。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
……なんだ、これ。
綺麗、とか、すごい、とか。
そんな言葉じゃ足りない。
ただ、目を離したくなかった。
ふと横を見ると、祖父が静かにこちらを見ていた。
「お前が喜んでいるのを感じて、作物も嬉しそうだな」
「おじいちゃんがそう言うと、本当に作物が思ってるみたい」
「当たり前だ。作物はもちろん、土だって虫だって、空だって気持ちがある」
「……」
「分かるやつは少ないんだがな。わしも、作物や虫は何となく分かるが……土や空となると難しい」
そう言って、祖父は田んぼの方へと歩いていく。
「これが稲なんだがな」
「この一本に、優しい愛情を伝えてみるな」
意味はよく分からなかった。
祖父の手がゆっくりと稲に近づいていくのを、思わず見つめる。
分厚くて、けれどどこか優しそうな手だった。
——さわり。
稲が、揺れた。
たまたまかと思った。
けれど、他の稲は、一本たりとも動いていない。
……本当だったのか。
作物にも、気持ちがあるっていうのは。
なんだか、胸が高鳴る。
「俺にも、できるかな?」
「やってみろ」
祖父は、少しだけ目を細めた。
「遺伝はあるらしいが、わしの子供や兄弟は誰もできなかった。
……あまり期待はしない方がいい」
「うん!」
稲の前に立つ。
さっき見た一面の緑が、頭に浮かぶ。
——あんなに綺麗なものを、見せてくれてありがとう。
そんな気持ちを、そのまま手に込めるようにして。
そっと、稲に手を添えた。
次の瞬間。
さわあ、と。
数本の稲が揺れた。
同時に、何かが伝わってくる。
あたたかいような、やわらかいような。
言葉にはできない感覚。
「まさか……」
祖父の声に振り向く。
普段、あまり表情を変えない祖父が。
涙ぐんだ目で、笑っていた。
「……お前がここに来たのも、運命だったのかもしれんな」
その言葉に、うなずく。
——ここで初めて、できる側の人間の世界に、足を踏み入れた気がした。




