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乙女ゲーム世界の悪役令嬢に転生しましたが、転生した先はレビュー☆1.2のクソゲーでした  作者: 小桜とおと
第1章

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3/15

第2話 攻略対象その1——知的指数推定3

 入学式の翌日から、授業が始まった。


 王立星彩学園のカリキュラムは、レビューで「設定だけは凝っている」と評された通り、なかなかに本格的だった。魔法理論、歴史学、社交術、剣術基礎。午前四科目、午後二科目の詰め込みスケジュール。


 ——もっとも、内容自体はこの十年で予習済みだ。


 ゲームの設定資料集に載っていた教科書の内容を、公爵家の家庭教師に頼んで先取りしておいた。首席の座は確保しておきたい。


 追放後に「実は学園の首席だった令嬢を追い出した」という事実が、周囲の後悔を最大化する材料になるからだ。


 ゲーマーの知恵は実生活にも役立つ。


 さて、一限目の魔法理論。


 教室に入ると、すでにほとんどの席が埋まっていた。ローゼリアと並んで前方の席に座る。


 ゲームでは「悪役令嬢は後方の席でヒロインを睨んでいる」という描写だったが、そんな非効率なことはしない。前の席の方がよく聞こえるし、教師の覚えもいい。


「おはようございます、セレスティア様!」


「おはよう、ローゼリア。今日も元気ね」


「だって楽しみですもの! 魔法理論、昨夜予習してきましたのよ!」


 ……この子の勤勉さは本当に好ましい。


 と、教室の空気が変わった。


 入り口から、金色の髪が揺れて入ってくる。


 第一王子、アレクシス・ロイ・グランディア。


 取り巻きの貴族子息を数名従え、教室の真ん中あたりの席に堂々と座った。


 周囲の反応を観察する。女子生徒の八割が頬を染め、男子生徒の半数が緊張した面持ちで姿勢を正している。


 ……まあ、見た目は文句のつけようがない。金髪碧眼、均整の取れた顔立ち、王族特有の気品。これだけのビジュアルを持ちながら中身が壊滅的だから、☆1をつけられるのだ。


 ゲームフォーラムの投稿を思い出す。


 『アレクシスの顔面偏差値は75、判断力偏差値は25。合計100を人数の2で割って50。平均的に見えるが、判断力25の方が致命的なので総合評価はマイナス。顔で許されると思うなよ』


 辛辣だが、的確だった。あのフォーラムの住人たちには批評家としての才能がある。


「セレスティア様、王子殿下がこちらをご覧になっていますわ」


 ローゼリアが囁く。


 確かに、アレクシスがこちらを一瞥した。公爵令嬢の顔を確認した、という程度の視線。


 ゲームの設定では、アレクシスとセレスティアの関係は「婚約者候補」だ。


 正式な婚約ではないが、公爵家と王家の間で暗黙の了解がある。だからこそセレスティアは「王子を取られた嫉妬」でヒロインを虐めるという筋書きになっている。


 もちろん、私にそんな感情は一切ない。


 ☆1.2の攻略対象に嫉妬する悪役令嬢など、存在しない。


「気にしなくていいわ、ローゼリア。授業に集中しましょう」


 と——教室の入り口が、もう一度動いた。


 蜂蜜色の髪。控えめな足取り。少しだけ不安そうな表情。


 リリアーナ・ミルフェが、教室に入ってきた。


 ——来た。


 攻略wikiによれば、これから最初の「ヒロインイベント」が発生する。


 『第一イベント「教室での出会い」。リリアーナが席を探して迷っている時に、アレクシスが声をかける。選択肢なし(強制イベント)。このイベント後、アレクシスのリリアーナへの好感度が+10される。クソゲー』


 リリアーナが教室をきょろきょろと見回している。席がわからないふり。男爵家の令嬢は席順の指定がないので、空いている席に座ればいいだけなのだが——あえて迷って見せる。可憐に。健気に。


 案の定。


「——おい、そこの。席がわからないのか?」


 アレクシスが声をかけた。


 教室の空気が動く。王子が自ら声をかけた。男爵令嬢に。


 リリアーナが大きな目を見開く。


「あ……殿下がわざわざ、私のような者に……もったいないお言葉です……!」


 翠の瞳が潤む。


 ——三秒で涙。これはもはや特殊技能だ。レビューで「涙腺が壊れている」と書かれていたのは比喩ではなかった。


「気にするな。困っている者を助けるのは当然のことだ」


 アレクシスが爽やかに笑った。


 ……うん。セリフだけ聞けば、悪くない。


 問題は、この「正義感」がヒロインにしか適用されないことだ。六ヶ月後、私がどんな冤罪を着せられても、こいつは助けてくれない。それどころか断罪する側に回る。


 レビューの言葉が脳裏をよぎる。


 『正義の味方ではなく、可愛い女の子の味方。それを正義と呼ぶな』


 ごもっとも。


 リリアーナがアレクシスの近くの席に案内される。周囲の令嬢たちが複雑な表情を浮かべている。嫉妬半分、興味半分。


 そしてリリアーナが——ちらり、と。


 こちらを見た。


 一瞬だけ。ほんの一瞬。


 その瞬間の翠の瞳には、さきほどの潤みなど一滴もなかった。


 冷たい、計算の光。


 ——ゾッとした。


 いや、レビューで読んで知ってはいた。


 『リリアーナの目が一瞬だけ変わるシーンがある。プレイヤーは気づくが、ゲーム内キャラは誰も気づかない。この演出だけは開発の仕事を認める』


 「演出」を「現実」として見ると、想像以上に怖い。


 あの目は——人を駒として見る目だ。


 今、リリアーナは私を「利用できる駒」として査定した。悪役令嬢は、ヒロインにとって「被害者アピールの道具」なのだから。


 ……上等。


 使われるつもりはないし、そもそも追放エンドまでの辛抱だ。


 私は何事もなかったかのように教科書を開き、授業の準備をした。


「セレスティア様? 少し顔色が悪いですけれど……」


「大丈夫よ、ローゼリア。少し——この学園の空気を確認しただけ」


 一限目の鐘が鳴る。


 ☆1.2のクソゲー、第一イベント完了。


 攻略wikiの通り、私にできることは何もなかった。ヒロインは王子の好感度を着実に稼ぎ、悪役令嬢は観客席に座るだけ。


 でも——忘れないで。


 このゲームの最適解は「追放エンド」。


 つまり、敵の好感度イベントが進めば進むほど、私の勝利条件に近づくということ。


 どうぞ、好きなだけイチャイチャしてくれ。


 その先に待っているのが何か——レビューを読んだ私だけが知っている。

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