カフェキュウビの日常4話18
久遠はテーブルに置かれたウィジャボードを見つけると、途端に目を輝かせた。
「おっ、ウィジャボードじゃないの。ん〜……これは楢の木だねぇ」
手触りを確かめるように、指先で木目をなぞりながら「ふむふむ」と唸る。
椿が煙管を指先で回しながら尋ねた。
「久遠、お主、山で何をしておったのじゃ?」
「んー、今は“妖具”を集めてるのよ」
「妖具?」
ミキが目を丸くする。
「そう、怪しい道具って言えば分かるかな。とにかく危ないのは危ないからね。ちゃんと集めて管理しなきゃいけないのよ」
「それで山に妖具を探しに行っていた、ということか」
椿が腕を組みながら言う。
「そ。まあでも、山に隠すなんてセンスがないわよね。“木を隠すなら森の中”って言うけど、本当に森に隠すのはバレバレ。山に不審者が出入りしたら地元のじいさんばあさんに秒で噂になるし。可愛いっちゃ可愛いけどね」
その軽口に、椿が呆れたように鼻を鳴らす。
光太は気になって、久遠の背後から覗き込んだ。
「それで、何かわかりましたか?」
「ひゃぁっ! くすぐったいくすぐったい!」
久遠が肩をすくめ、光太の息が首にかかった場所を押さえる。
「い、す、すみません!」
「コホン。……で、これ、どこで拾ったの?」
久遠は急に真面目な声になり、ヒロシを見る。
「学校です。物置にあって……僕が見つけました」
久遠は目を細めてうなずく。
「学校って子どもがたくさんいるでしょ? そんな場所にわざわざ置かれているなんて──“見つけてください”と言ってるようなもの。いや、“見つかることが前提”か……。なんでそんなことを……?」
久遠が低く呟いた瞬間、店の空気がわずかに張りつめた。
「ねえ、ヒロシ君」
久遠は体を少し乗り出し、真剣なまなざしを向けた。
「最近、体調悪いとか……ない? 例えば、寝ても寝た気がしないとか、ずっと疲れてるとか」
ヒロシははっとして、小さく頷いた。
「……そういえば……あります。寝ても、すぐ目が覚めるし……なんか重い感じがします。ずっと」
椿は煙管を置いて、ヒロシを見た。
久遠はウィジャボードの木目をそっと撫でながら言う。
「思ってたより、厄介かもしれないね。これ」
「まず、わざわざ高価な楢を使ってる時点で──これは“呪い”の類だと考えるのが妥当ね。ただのおもちゃなら、もっと安い木で十分だもの」
久遠はウィジャボードを指先で叩き、木肌の感触を確かめながら言った。
「呪いって……どんな呪いなんですか?」
光太がおそるおそる尋ねる。
「そうだな……一番多いのは“生命力を吸う”タイプじゃな」
椿が煙管をくわえながら補足する。
思わずヒロシの顔が青ざめた。
そのとき、街の外から電子音が響く。
──夕方五時のチャイム。
「あっ、もうこんな時間か。ミキ、帰るぞ。ヒロシ君も」
中島が立ち上がり、二人に声をかけた。
「うん……」
「はーい!」
二人は名残惜しそうにボードを見つめたが、小学生だ。親も心配する時間帯だ。
ミキとヒロシは中島と共に帰っていく。
扉が閉まったあと、店内には落ち着いた静寂が戻った。
その間に久遠は、これまでに起きた出来事を椿から聞かされていた。
「なるほどね。だとすると──“助けて”とメッセージを送った存在。あれは、生きている子じゃなく“魂”の可能性が高いわ」
久遠の言葉に、光太と海が小さく息を呑む。
「調べられるか?」
椿が問う。
「やってみるよ。ちょうど道具もあるしね」
久遠は大きなリュックを床に下ろし、ゴソゴソと中を漁った。
古びた紙札を数枚取り出し、慣れた手つきでテーブルの上に並べていく。
五枚の札が、星を描くように五芒星の形を作る。
その中心に──ウィジャボード。
「椿、香をお願い」
「心得た」
椿は戸棚から香炉と細い香木を取り出し、火をつけた。
白い煙がゆるく立ちのぼり、ジャズの音と混じって空気が少しずつ変わっていく。
久遠は静かに目を閉じ、両手をボードにかざした。
「さて……中に眠ってる“子”が、応えてくれるといいんだけどね」
店の空気が、わずかに沈んだ。
次の瞬間──微かな“気配”が、じわり、と現れ始める。




