カフェキュウビの日常4話17
椿さん、お知り合いなんですか?」
光太が尋ねると、椿は煙草をくゆらせながら静かに答えた。
「うむ。あやつは久遠春子。陰陽師の家系の者じゃ」
「陰陽師……ですか」
光太が思わず声を漏らす。
「そうじゃ。ただ、あやつは自由奔放でのう。山に行っていたと言っておったが……まったく何をしておったのやら」
「陰陽師!? 聞いたことある! 映画とかに出てくるやつね!」
ミキが目を輝かせる。
「なんだっけ? りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん、だっけ」
中島がどこかで見た印を不器用に真似しながら言った。
そんな話をしていると、奥から湯気のように涼やかな気配が戻ってくる。
「ふうーっ、さっぱりした〜。久しぶりのシャワーだよ」
久遠が浴衣姿で現れた。どうやら椿が貸したらしい。
さっきの山姫のような風貌とは打って変わって──
整った顔立ちに、垂れ気味の優しい目元。山で焼けた肌が健康的な色気を帯びている。
久遠はカウンターの椅子に腰掛け、すらりとした足を組んだ。
浴衣の裾から伸びる白い脚線に、光太は慌てて視線を逸らす。
その反応を見逃す久遠ではない。
「椿がね〜、全部洗っちゃったから……今、履いてないのよねぇ。ふふ」
わざとらしく呟く。
光太の耳まで真っ赤になった。
「お主、やめんか」
椿が呆れながら久遠の頭を小突いた。
「へいへい、冗談冗談」
その時、椿が皿をドンと久遠の前に置いた。
分厚いサンドイッチが山のように盛られている。
「ほれ。まずは腹を満たせ」
「うおぉ〜、久しぶりにまともな食事……!」
久遠は涙ぐみながらサンドイッチを頬張った。
「美味い……美味い……! 山じゃ山菜とキノコばっかりだったからねぇ……!」
皿はあっという間に空になり、久遠は氷の音を立ててアイスコーヒーをすすった。
「あー……生き返った……」
食べ終えた久遠は大きく伸びをし、どこか満足そうに微笑んだ。




