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カフェキュウビの日常  作者: ころまる


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カフェキュウビの日常4話16

光太たちは、桜川小の近くにある公園へやってきた。

放課後の公園はまだ明るく、ランドセルを背負った子供たちの声が響いている。

その一角、ベンチのそばに座っている少年と中島の妹の姿があった。

「いたな」

中島が小声で言う。

「たぶん、あの男の子だな」

光太たちは気づかれないように木陰に隠れ、二人の様子を伺う。

「ここからじゃ話が聞こえないな」

光太が小声で言う。

「仕方ない、直接行くか」

光太は深呼吸をして意を決した。

そしてゆっくりと少年たちのもとへ歩いていく。

「ねぇ、君……なんか面白いもの持ってるんだってね」

突然の声に、少年はびくりと肩を震わせ、光太を見上げた。

その視線は警戒心に満ちている。

「今、それ持ってる?」

光太が穏やかに尋ねると、少年はしばらくためらったのち、

おずおずとランドセルの中から一枚の板を取り出した。

それは、例のウィジャボードだった。

木製で、手作り感があり、中央にはアルファベットが並び、

端には「YES」と「NO」、そして数字が刻まれている。

「見てもいい?」

光太が確認すると、少年はこくりと頷いた。

光太はウィジャボードを手に取り、裏返したり、角を確かめたりした。

見たところ、特別な仕掛けがあるわけでも、

何か不気味な気配がするわけでもない。

「……うーん、見た感じ、普通のボードだな」

光太は眉をひそめた。

「やっぱり僕じゃ分からないな。

もっと詳しい人がいるんだ。その人に見せてもいい?

この近くだし」

少年は少し考えた末、こくりと頷いた。

「いいですよ。僕も気になるし」

「助かる。ありがとう」

光太は少年と中島の妹を促し、

近くのカフェ──椿の待つ「カフェ・キュウビ」へと向かった。

夕暮れが少しずつ濃くなり、

街灯の明かりが一つ、また一つと灯りはじめていた。

ランプの灯りが木の壁を柔らかく照らし、サイフォンの気泡が静かに弾ける音が響いていた。

テーブルの上には、一枚の古びた木の板──ウィジャボードが置かれている。

椿は煙管をくゆらせながら、それを手に取りじっと観察した。

「ふむ、材質はならじゃの」

低く響く声。木の目を指先でなぞる。

光太は隣から覗き込みながら尋ねた。

「材質が関係あるんですか?」

「楢という木はヨーロッパでは神木として崇められてる木じゃ。ケルトや北欧の神話にもたびたび登場する。

精霊が宿る木──と呼ばれておる」

椿はそう言い、ぼんやりと煙を吐き出した。

「つまり、それって……」

光太が言葉を探すと、椿が続きを引き取る。

「妖具の可能性がある。ようは特別な力が込められてるということじゃな」

その言葉に少年──ヒロシは小さく身を縮めた。

「お主、名は?」

「ひ、ヒロシです」

「ヒロシ、この板をどこで手に入れたのじゃ?」

少年は俯いたまま言葉を飲み込む。

代わりに、隣に座っていた中島の妹が身を乗り出した。

「学校の物置で見つけたんだよね、ヒロシ君!」

「こら、ミキ。口を挟むな」

中島が眉をひそめる。

「いいのじゃ、中島」

椿は笑って手を振った。

「子供の言葉には、時に真実が潜んでおるものじゃ」

ヒロシは観念したように、ぽつりと口を開いた。

「……ミキの言う通りです。学校の物置にあったんです」

夕陽の光がステンドグラスを透かして床に滲み、琥珀色の影を落とす。

椿は静かにコーヒーカップを持ち上げ、口をつけた。

湯気がゆらゆらと立ちのぼり、彼女の長いまつ毛をかすめる。

上目づかいでヒロシを見ながら、低く問いかける。

「それで?」

ヒロシは小さく息を飲み、俯いたまま話し始めた。

「最初は何か分かりませんでした。でも……なんか“こっくりさん”に似てると思って、

ネットで調べたら“ウィジャボード”って出てきたんです。

それで、試しに質問しようと思って指を置いたら……」

ヒロシの声が震える。

「指が勝手に動いて、文字を指していったんです。

T、A、S、U、K、E、T、E──“助けて”って」

「ふむ」

椿が唸るように応える。カップを置き、片肘をついて煙管を回した。

「それから、いろいろ質問しました。明日の天気とか、テストの答えとか……。

でも、ある日うっかり友達にその話をしたら、どんどん広まって……」

「なるほど。今の状況に至る、というわけか」

光太が呟く。

ヒロシは静かに頷いた。

「でも、他人の秘密なんて……趣味が悪いよ」

光太の声には、少しの苛立ちと戸惑いが混ざっていた。

ヒロシは苦しそうに言葉を絞り出す。

「違うんです……! 僕は……みんなが“やれ”って言うから……。

いや……たぶん、僕も少し調子に乗ってたかもしれません」

その言葉のあと、しばし沈黙が落ちた。

時計の針の音だけが、カフェの中に響く。



カラン、と入口のカウベルが澄んだ音を立てた。

光太たちが一斉にそちらへ視線を向ける。

そこに立っていたのは──場違いなほど大きなリュックを背負った女だった。

服は泥と葉っぱまみれ、髪はボサボサで、よく見ると枯れ枝まで絡まっている。まるで山からそのまま転がり落ちてきたような姿だ。

「やあ、椿、久しぶりだな」

久遠(くおん)!?」

椿の顔色が変わった。驚きすぎて、手にしていた煙管を危うく落としそうになる。

「お主、なんじゃその格好は!」

椿はツカツカと久遠のもとへ歩み寄り、思わず鼻をつまみそうになった。

「それに……臭いぞ」

「いやぁ……今、山から降りてきたところでさ……そんなに匂う?」

久遠は頬を赤らめ、頭をかく。枯れ葉がぽとりと落ちた。

「とにかくシャワーでも浴びい。ここは飲食店じゃぞ!」

椿は久遠の腕をつかみ、そのまま奥の生活スペースへとずるずる連行していった。

ぽかん、と残された光太たちは、誰もが状況についていけず唖然としていた。

「……えっと、とりあえずコーヒーでも淹れるよ」

光太が我に返り、カウンターの中へ入る。

ヒロシもミキも、中島も、海も、呆気にとられたまま無言でその背中を見ていた。

しばらくして──

「まったく、あやつめ……困ったやつじゃ」

椿が戻ってきた。

髪をかき上げため息をつくその表情は、どこか呆れているが、同時にどこか嬉しさも滲んでいた。


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