カフェキュウビの日常4話11
翌日。
光太、キヌ、そしてジュンは――ついに「海の尾行計画」を実行に移していた。
本来なら光太はキヌと二人でやるつもりだった。
「人数が多いと目立つ」と提案したのだが、ジュンが「僕も行くー!」と駄々をこね、
結局三人で行動する羽目になった。
海は新宿のコンビニでバイトをしている。
三人はその向かいのファミレスに入り、窓際の席から様子をうかがっていた。
アイスコーヒーを前に、光太は真面目な顔でレジに立つ海を見つめる。
だが――
「なんもないね」
キヌがストローをくわえたままぼやいた。
最初の30分はみんな妙に張り切っていたのだが、
4時間経った今では全員のテンションが底を打っていた。
海はレジで接客し、商品を並べ、
一度だけゴミを捨てに外へ出た。それだけ。
何の変哲もない、ただのバイト風景。
ジュンはスマホをいじりながらつぶやいた。
「もうすぐシフト終わるよ」
そのとき――
「おい、お前ら」
低い声に光太たちはびくりと肩を跳ねさせた。
振り向くと、白髪にサングラスの大柄な男が立っていた。
腕を組み、ファミレスの席に立つその姿は、どう見ても“尋問”モードだ。
「さっきからコンビニばっか見てるけど、なんか面白ぇもんでもあんのか?」
光太とキヌは顔を見合わせ、完全に挙動不審。
ジュンだけが、まるで常連客のように落ち着いていた。
「いやね、あそこのコンビニで友達が働いてるの。だから見てただけ」
ジュンは笑顔で答える。
そして男の体を上から下まで眺めて――
「君、背高いね。モテるでしょ?」
「モテねぇよ。嫌味か?」
「じゃあ僕が狙っちゃおうかなー」
「……俺は男に興味ねぇよ」
「男!?」「男!?」
光太とキヌの声がハモった。
ジュンは「へへっ」と笑い「バレたかー。どこで分かった?」
「手だ。女にしちゃ骨が太くてしっかりしてる」
「へぇー、なるほど。今度から手袋しよっかな」
「ジュン、あんた男だったの!?」とキヌ。
「うん。ごめんねー」
ジュンはケラケラと笑っている。
男は呆れ顔でため息をついた。
「お前ら暇なのか?何時間もコンビニ見張って」
「確かに暇だけど、でも君だって僕たち見てたんでしょ?お互い様じゃん」
「ぐっ……」
ジュンに図星を突かれ、男は黙り込んだ。
「まぁまぁ」とジュンが男の腕を引っ張る。
「ほら、座って座って。暇人同士仲良くしよう」
押しに負けて、男は観念したように席に腰を下ろした。
「僕、ジュン。で、こっちが光太とキヌ」
「……俺は二郎だ。お前、どっかで見たことあんな」
「僕? うーん……ライブハウスとか?」
「そういや、ライブハウスにいったときガールズバンドの中に一人男が混じってるのいるなって思ったことあったな……あれか」
「そう、それたぶん僕でえす」
ジュンは親指を自分に向けてドヤ顔を決める。
「へっ、おもしれぇやつだな」
それから、ジュンのライブハウスでの武勇伝が始まった。
色んな話があったが、特にギターを燃やしてボヤ騒ぎになった話がインパクトがすごかった。
どれも現実味がなくて、光太とキヌはただ呆れるばかりだったが二郎はゲラゲラと笑っていた。しかし一番驚いたのはジュンが男であるということだった。




