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カフェキュウビの日常  作者: ころまる


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カフェキュウビの日常4話10

光太とジュンが向かい合って座っていると、向こうのカウンターからキヌが近づいてきた。

ココアを手にして椅子に腰を下ろすと、開口一番に言った。

「光太、鼻の下伸びてるわよ」

「え、そんなこと……」

光太は思わず顔をそむけたが、図星だった。

キヌはわざとらしくため息をつき、ココアをひと口。どうやら椿に休憩をもらったらしい。

ジュンはじっとキヌを観察していた。

「ふーん……なるほどねぇ」

何かを見抜いたように、小声で呟く。

「キヌちゃん、だよね?」

突然話しかけられたキヌは一瞬驚いた。

「え? あ、はい」

「キヌちゃん、コーヒー淹れられるの?」

「え? 一応、店のコーヒーは私が……」

「そっかぁ。僕も淹れてみたいなぁ」

その一言で、カウンターの方からすかさず椿の声が飛んだ。

「いいんじゃないか、キヌ。教えてやれ」

店内は客も少なく、話し声は筒抜けだった。

キヌはどうしようかと一瞬ためらったが、やがて意を決したように言った。

「……じゃあ、こっち来て」

光太は内心、キヌが断るだろうと思っていた。

ところが意外にもすんなり受け入れたので驚いた。

カウンターに立った二人は、すぐに打ち解けていった。

キヌが手順を教え、ジュンが真剣な顔でそれを真似る。

だが、気づけば笑い声が絶えず、先ほどまでの距離感は跡形もなかった。

「えへへ、こうやってやるんだね」

「そうそう、もう少しお湯ゆっくり」

「なるほど~、キヌ先生!」

そして気づけば、ジュンはいつの間にかキヌの腕に自然と抱きついていた。

光太はその人懐っこさと、場の空気を支配する才能に舌を巻いた。

――まるで、どんな相手にも入り込む術を知っているみたいだ。

それどころか、椿とも軽口を交わしていた。

女三人の笑い声が店内に響く。

光太は、その輪の中に入りづらい自分を感じた。

――女だらけの家族に男が一人混じったら、きっとこんな感じなんだろうな。

光太は温くなったコーヒーをひと口飲んだ。

マイルス・デイヴィスの

「Blue in Green」 が静かに流れ出す。

トランペットの淡い旋律が、カフェの空気にとけていくようだ。

ベースがゆっくりと呼吸を刻み、ピアノが遠い記憶をなぞる。

光太は手持ち無沙汰で、ラックに並ぶ雑誌の中から適当に一冊を抜き取った。

ページをパラパラとめくる音が、ジャズのリズムと混じって心地いい。

視線を上げると、カウンターではキヌとジュンが並んで笑っている。

その向こうで椿が煙管をくゆらせ、ゆるやかに目を細めていた。

光太は雑誌を閉じ、静かに息を吐く。

――「Blue in Green」のトランペットが、胸の奥を少しだけ締めつけた。

「尾行しよう」

光太は、思わず目を瞬かせた。いつの間にかキヌとジュンは光太の眼の前にいた。

二人は顔を見合わせて、いたずらっ子のように微笑み合っている。

まるで、ボールを取ってきた犬が飼い主に褒めてもらうのを待つような表情だった。

名案でしょと顔に書いてある。

――どうやら、ジュンがなにか吹き込んだらしい。

「尾行?」

とりあえず無難に返す。

却下すれば拗ねられるし、許可すれば面倒になる。

どちらに転んでも厄介だと、光太は悟っていた。

「ジュンに聞いたけど、海のこと調べるんでしょ?」

「いや、調べるっていうか……気にかけてって言われただけだよ」

「まあ、なんにもなければそれでいいじゃん。アキも安心できるし」

と、ジュンが笑顔で言う。

キヌは「そうだね!」と頷いてジュンの腕を取り、二人で小さくハイタッチを交わした。

その光景を見ながら、光太は心の中でつぶやく。

――これはとんでもないコンビが生まれたな。

「でもさ、尾行はよくないだろ」

光太は一応、常識人として口を挟んだ。

キヌが言いたいのは“探偵ごっこ”みたいなものだと分かってはいる。

警察官やケーキ屋に憧れる小学生と変わらない。

「尾行じゃないよ。ちょっと様子を伺うだけ」

「……それを尾行って言うんじゃないの?」

「違うの。海には内緒だけど、ほら、親が庭で遊んでる子供を

危なくないか見てるみたいなもんだよ。監視じゃなくて見守り。ね?」

ジュンがしたり顔で言う。

光太は深いため息をついた。

(……結局この二人、止めてもやるんだろうな)

「わかったよ。少し遠くから見るだけだぞ」

「やったー!」

キヌとジュンはハイタッチして大喜び。

その隣で光太は、ただ一人どんよりとした気持ちでカフェラテを啜っていた。

ジャズのトランペットが、どこか遠くで「やめとけよ」と呟いているようだった


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