カフェキュウビの日常4話6
ライブハウスを出ると、夜の風がまだ熱を帯びている。
先ほどの騒ぎが嘘のように静かだ。
「すごかったね」
キヌが息を弾ませながら言った。
「うん」
光太も頷いた。
「めちゃくちゃだったけど、あの人の歌、すごかったなぁ。もっと聞きたかった」
「確かに。なんていうか――惹き込まれた」
光太は思い出すように目を細めた。あの声は、言葉よりも深く胸に響いていた。
「いきなりドロップキックだもんね。びっくりしたよ」
キヌが笑う。
その時、光太のスマホが震えた。画面をのぞくとメッセージの通知があった。
『これから反省会。今日はごめん。明日カフェにいく』
――海
短い文。絵文字もない。「海、明日店に来るって。今から反省会するみたい」
光太が言うと、キヌがちらりと視線を向けた。
「ねぇ光太。海って人、幼なじみなんだよね。……好きなの?」
光太は一瞬言葉に詰まった。
「考えた事もないな。どうだろ。多分、そういうのとは違うと思う」
言葉を探すように、光太は夜空を見上げた。
「海はさ、昔は大人しくて優等生で、先生の言うこともちゃんと聞くタイプだった。
でも中学が違って、自然と会わなくなって、高校入って久しぶりに見たら――バンドとかやっててさ」
「そうなんだ……何かあったのかな」
キヌがぽつりと呟く。
少しの沈黙が落ちた。夜風が二人の間を通り抜けていく。
「ねぇ、あの投げた人……平気かな?」
「あぁ、さぁ。まぁなんとかなるでしょ」
光太は特に興味なさそうに言った。
「でも、あんな勢いで蹴られたら痛いよね」
「自業自得でしょ。あんなことしたんだし」
「うーん……そうかもしれないけど」
キヌは少し考え込むように口をつぐんだ。
しばらく無言で歩く。
「気にならないの?」
光太は一瞬考えてから答えた。
「気にしたってどうにもならないし。人の気持ちなんて、見えないじゃん」
「光太って、他人にあんまり関心ないの?」
突然の問いに、光太は歩みを止めた。
「……分かんない。でも、誰かに迷惑かけるのも、かけられるのも嫌なんだ。一人なら、誰も傷つけないし、傷つかない。他人といていいことがあったとして、悪いこともあるならプラスママイナスゼロ、どっちも同じじゃないかな」
「私は、一人は寂しいよ」
キヌは前を向いたまま言った。
「誰かと一緒にいたい。迷惑でも、傷ついても、やっぱりそのほうがいい」
光太は返す言葉が見つからなかった。
キヌの横顔は一生懸命何かを伝えようとしている感じがした。
この数ヶ月で、自分のまわりが少しずつ変わっていくのを感じていた。
椿、権助、平次、そしてキヌ。
いろんな出会いがあった。その出会いは自分にとってどんな意味があるのか光太は考えた。




