カフェキュウビの日常4話4
「あ、光太!来てくれたんだ!」
ステージ袖の方から、海が手を振りながら駆け寄ってきた。
照明の反射で金髪がきらりと光る。
ライブ直前の興奮がそのまま声に乗っているようだった。
「そっちは、確かキヌちゃんだね」
そう言われて、キヌは光太の背中にそっと隠れた。
人混みと、海の明るさに少し気圧されているようだ。
「メンバー紹介するよ。みんな今、二階で物販の売り子やってるから」
海に促されて、光太とキヌは階段を上がった。
階段は少し急で、照明も暗い。
金属製の手すりには、どこかのバンドのステッカーが貼られていた。
上に出ると、二階は小さな観覧スペースになっていて、
そこからもステージ全体が見渡せるようになっていた。
奥には、折り畳み式の机とパイプ椅子が並んでおり、
その上に自主制作のCDやステッカー、ピックなどが並べられていた。
すべて手作り感があり、どれも数は少ない。
“タルタロス”のロゴがプリントされたTシャツも、数枚だけ吊るしてある。
「この子がリーダーでドラムのアキ。
その隣がギターのケイ。
で、私がベース。
あと、ボーカルのジュンがいるけど、今は準備しててここにはいない」
海が指を差して紹介する。
どのメンバーもステージ衣装のまま、フレンドリーに笑っていた。
「こっちが光太。幼なじみ。で、その隣がキヌちゃん」
「どうも、橘光太です」
光太は少し緊張した声で挨拶した。
普段関わることのない“バンド系”の人たち。
髪の色も服装も、何もかもが自分とは違う世界の人間のように見えた。
「リーダーのアキです。よろしく」
長髪を後ろで結んだ青年が、穏やかに笑って手を差し出した。
その手のひらは、ドラムスティックを握り続けてきた証のように、
固く、節くれ立っていた。
「タルタロス、準備おねがいしまーす!」
ライブハウスのスタッフらしき女性が、
よく通る声で声をかけた。
「はーい!」
ドラムのアキが明るく返事をする。
海も「よし、行こうか」と笑って、
机の上のグッズを手早く片づけ始めた。
「じゃあ準備するから、ライブ楽しんでって!」
その声には、緊張と興奮が混ざっていた。
バンドの仲間たちはテキパキと机や椅子を片付け、
ステージの方へと消えていった。
「行っちゃったね。どうする? 下で見る?」
光太が聞くと、キヌは少し顔をしかめた。
「下は怖いから上からがいい。
ここなら全体も見えるし」
確かに、下のフロアは人でいっぱいだ。
ステージ前はすでに押し合いのようになっている。
「そっか、じゃあそうしよう。……あ、そうだ」
光太は手にしていたピックを思い出す。
「飲み物、まだだった。もらいに行こう」
二人は階段を下りていく。
照明がわずかに落ち、
ステージのアンプから“ドン”と低い音が響いた。
もうすぐ始まる。
キヌは少し緊張した面持ちで、
手すりを握りながら足早に光太の後を追った。




