カフェキュウビの日常3話14
夜風が止んだ。
一瞬、世界の音がすべて吸い込まれたような静寂が訪れる。
その静寂を破るように、椿は足をわずかに滑らせ、重心を落とした。
翻った着物の裾から、すらりと伸びた足がわずかに覗く。
その一瞬の所作さえ、敵を魅了するほどに美しかった。
「はぁっ!」
鋭い風切り音とともに、槍の穂先が地面すれすれを薙ぐ。
乾いたアスファルトが弾け、火花が散った。
ミケの足首を狙った一撃は、しかし紙一重でかわされる。
ミケの体がふわりと宙に浮かぶ。
「動きが猫そのものじゃな……」
椿の声には焦りはない。
呼吸は一定、瞳はまっすぐ獲物を見据えている。
一方のミケは、口角を上げ、不気味に笑った。
「猫じゃないよ。もう違う。私は――強い」
その瞬間、ミケの姿が掻き消えた。
「上かっ!」
椿が即座に槍を構える。
ガキィィン!
太刀と槍が激突し、空気が震えた。
一撃の重さは想像を絶する。椿の腕が痺れる。
ミケは着地と同時に連撃を繰り出した。
鋭い太刀筋が三度、四度――流れるように走る。
それを椿は最小限の動きで受け流した。
一旦、体制を整えつつミケの握っている太刀を観察する。
「その太刀は」
槍の柄で弾き、回転させ、ミケの懐を狙う。
火花が雨のように散り、周囲の街灯がちらついた。
「どうしたの? さっきまでの余裕は?」
ミケの瞳が妖しく光る。
その刃先には、まるで怨念が宿っているようだった。
太刀が振るわれるたびに、空気が歪み、影が伸びる。
夜の静けさを、金属の衝突音が幾度も切り裂く。
「やはり、太刀が主ではなく“呪”そのものか……!」
椿は槍を地面に突き立てた。
その周囲に蒼い炎が立ち上がり、風が渦を巻き、落ち葉が舞い上がった。
「破邪・炎狐陣!」
炎が円を描き、ミケを包み込む。
しかしミケは怯まない。
炎の中から、瞳だけが赤く光っている。
絶叫とともに、ミケは再び太刀を振り下ろした。
炎が裂け、光と影が交錯し槍の穂先を翻し、渾身の力で受け止める。
金属の軋みが、まるで獣の悲鳴のように響く。




