表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カフェキュウビの日常  作者: ころまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/57

カフェキュウビの日常3話2

新宿・歌舞伎町。

路地裏で、佐藤海は二人組の男に絡まれていた。

二人は、どちらも二十代そこそこの若さだった。片方は金髪、色落ちしたジーンズに金のチェーンをぶら下げ、腕には安っぽいタトゥーがのぞく。もう片方は坊主頭、派手な柄シャツを胸元まで開け、煙草を咥えたまま笑っている。どちらの顔にも、不必要に尖らせた眉と、根拠のない自信が刻まれていた。

「へぇー、ベースじゃん」金髪の男が勝手にケースを開け、中のベースを取り出して遊び始める。

「おい、勝手に開けるな!」海は慌ててベースを金髪の男からひったくる。

「おーこわ。ねぇ、それより俺たちと遊びにいこうぜ」

「はぁ? なんで!?」

その時、低く落ち着いた声が響いた。

「おい」

振り向くと、白髪でサングラスをかけた男が立っていた。そしてなぜか「働いたら負け」と書かれた安っぽいTシャツを着ていた。だが二人組は無視して話を続ける。

「おい」

再び声が飛ぶ。鬱陶しそうに金髪の男が振り返り、睨みつけた。

「なんだよ、関係ねえだろ。アッチ行けよ」

犬でも追い払うように手を振った瞬間、白髪の男が動いた。

男の襟をつかみ、そのまま軽々と三メートルほど向こうへ投げ捨てたのだ。

「がっはぁ!」背中から地面に叩きつけられた男は咳き込み、呼吸もままならない。

「てめぇ!」

残った男が怒鳴りながら突進してきた。

次の瞬間、白髪の男の拳が腹にめり込み、そいつは苦悶の声を漏らし膝から崩れ落ちた。

「チッ……カスが」

男は吐き捨てるように言うと、何事もなかったように立ち去ろうとした。

海は呆然とその背中を見つめ、慌てて頭を下げる。

「ありがとうございました!」

人生で一番深く頭を下げた。

白髪の男は一瞥もせず、手をひらりと振り、近くの店に消えていった。


練習スタジオ

その後、海はバンド仲間と練習スタジオに入った。スタジオは三階建てで、外壁の塗装はところどころ剥がれ落ち、入口の看板も色あせて文字がかすんでいる。階段は軋み、壁のポスターは数年前のライブ告知がそのまま残っていた。中に入ると、埃っぽい匂いと古いエアコンの風が混ざり合い、かすかなカビ臭さが鼻をつく。

それでも、このスタジオは学生やバンドマンに人気だった。理由はひとつ──安いからだ。駅からは少し歩くが、一人当たりワンコインで数時間借りられる。多少のボロさを我慢すれば、好きなだけ音を鳴らせる空間がここにはある。

けいマジだって! この目で見たんだ!ポイってボールでも投げるように」

興奮冷めやらぬまま、先ほどの出来事を語る海に、圭と呼ばれるギター担当の仲間が目を輝かせる。

「ホントかよ、それ漫画じゃん。すげーな」

「で、海はその人に惚れたってこと?」

「ばっ……ちげーし!」

茶化されて顔を赤くする海。ドラムの子が時計を見て溜め息をついた。

「はいはい、怪我なかったんだからいいじゃん。それより練習しようよ。スタジオ代だってタダじゃないんだから」

そう、バンド活動には金がかかる。楽器はもちろん、練習スタジオだって時間単位で金を取られる。ライブをやるならチケットノルマを背負わされ、赤字になれば自腹だ。

「やべ、もう10分過ぎてる!」

慌てて楽器を準備するメンバーたち。

彼らのバンド名は《タルタロス》。ギリシャ神話に登場する冥界の深淵、あるいはその神の名を冠したバンドだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ