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カフェキュウビの日常2話11

翌日。

光太とキヌは買い物横丁に来ていた。

「平次のやつ、“こっちに来い”って言っておいて、場所を言わないなんてありえないわ」

キヌがぶつぶつ言う。

「うーん……とりあえず、あの神社に行ってみようか。そこくらいしか思いつかないし」

光太は肩をすくめた。

思ったよりも探す手間はかからなかった。平次は神社の鳥居の前で待っていたのだ。

「あ、あれ平次じゃない?」

キヌが指さすと、平次も二人に気づき、歩み寄ってきた。

「まあ、とりあえず着いてきてくれ」

三人は言葉少なに歩いた。五分ほどで長屋が並ぶ通りに出ると、平次は足を止めて三軒先を指さした。

「あそこに母親と娘が住んでる。お前の財布は……今、その娘が持ってる」

「そう……可哀想だけど、事情を話して返してもらうしかないわね」

キヌは唇を噛んだ。

「もちろん支払った金は返す。だがなぁ……」

平次の歯切れは悪かった。

「なによ、何か問題でもあるの?」

キヌが問い詰める。

「問題っちゃあ問題か。どうやらな、その財布……母親から娘への贈り物らしいんだ」

「……」

キヌはそこで平次の言葉を遮った。

「もういいわ。それなら貸しってことでいい。いつか返して」

そう言うと光太の腕を引いて、その場を去ってしまった。

「お、おい、本当にいいのか?」

背後で平次が声をかけたが、キヌは答えなかった。

――――

カフェ・キュウビに戻るまで、キヌは一言も喋らなかった。

店に入ると、カウンターには権助が座っていた。

「よう、どうした?」

「権助、代わってくれてありがとう。もういいわ」

キヌは短く言った。

「もういいって……なんだよ」

権助は訳が分からず、椿に視線を送る。椿は静かに頷いた。それは「今はキヌの言葉を受け入れてやれ」という合図に思えた。

「お、おう。……そっか。いやー助かるわ、丁度パチンコでも行きたい気分だったからよ」

そう言って、権助は気まずそうに店を後にした。

「キヌ」

光太が声をかける。

「いいの?」

ようやく、キヌはぽつぽつと語り出した。

「あのね、あの財布……母さんの形見だって、前に話したでしょ?」

「うん」

「だからさ……あの子と自分が重なっちゃったんだ。母さんからもらったものを、大事に持ってる。その気持ちを思ったら……私が取り上げようとしてたのは、あの子にとっての“母さん”そのものなんじゃないかって」

「キヌ……」

「私、平次に財布を盗まれてショックだった。だからあの子も、もし取り上げられたらきっとショックだよね。……だったら、今度はあの子の支えになればいいかなって」

光太は胸の奥が温かくなるのを感じた。

「ココアじゃ。クリームたっぷりじゃぞ」

椿がタイミングよくカップを差し出す。

キヌはカウンターに腰を下ろし、一口飲んだ。

「……甘いなぁ」

その声は、少し震えていたが、どこか安心した響きを帯びていた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

2話が終わりました。

次から3話に入ります。

コメントお待ちしております。

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