空より堕ちた希望
塔の最深部、《空の心臓》にたどり着いたカイルを待っていたのは、異形の精霊だった。
それは風とも火とも水とも違う。色を持たず、形を変え、ただ揺らぐだけの存在。
《名を問う》
空間に響く声。カイルは真っ直ぐ立ち、名を告げた。
「カイル・ヴァン。……無属性の、ただの人間だ」
《汝は“空白の器”。選ばれぬ者。されど、選びうる者》
精霊は、光となってカイルの体内に宿る。
全身を走る激しい痛み。そして、その痛みの先にあったのは、風、火、水、土、雷、すべての属性の感覚だった。
「これが……精霊の力」
導き手が静かに頷く。
「お前は“属性を持たぬ者”ではない。“すべてを受け入れる者”だ」
◆
塔を出たカイルは、廃都ルーメルへ向かう。
そこには、かつて精霊信仰で栄え、そして神の民によって滅ぼされた民の記憶が眠っている。
カイルはそこで、少女と出会う。名をリュミナ。白髪の魔術師。彼女もまた、神の民によって家族を奪われ、塔に魅せられた一人だった。
「あなた、無属性なの?」
「ああ。でも、今は違う。空の塔に選ばれた」
「……あなたが、希望だというのなら、私はあなたを守る」
カイルとリュミナは、共に旅をすることになる。
廃都の深部で二人は、神の民が設けた「封印の石碑」にたどり着く。それは、かつて精霊との契約を試みた“罪人”たちの記録だった。
石碑は語る。
「属性なき者が、空の力を制したとき――神の支配は終焉する」
それは、神の民が最も恐れていた存在。
選ばれぬ者が、選ばれし者を超える未来。
◆
その夜、襲撃があった。
神の民――「聖印官」を名乗る男が、光の剣を持って現れた。
「異端者カイル・ヴァン。神の名のもとに、お前を粛清する」
戦いが始まる。聖印官は空を裂く雷を操り、リュミナを傷つける。
カイルは怒り、立ち上がる。
「……もう、奪わせない!」
全属性の力が、彼の中に渦巻く。
その瞬間、聖印官の雷が封じられ、代わりに風と火が逆巻いた剣がカイルの手に現れる。
それは、塔に選ばれた者の剣。名を――《ヴァル=エア》。
剣が振るわれ、聖印官は敗北する。
「なぜ……選ばれぬ者が、ここまでの力を……!」
「それは、お前たちが見ようとしなかったからだ。空白は、可能性なんだ」
聖印官は逃げ去り、二人は傷を癒しながら、次なる地へと向かう。
「世界は、思ってたよりも壊れてる」
「でも、あなたなら変えられる。私は、そう信じてる」
夜空に光の塔が浮かび上がる。
それは、カイルの力が世界に認識された証。
希望は、いま、空より堕ちた。