魔界編 第1章 魔王城
「此方が食堂でございます!」
そこは自国では兵舎の方が清潔だった。
「この先は兵舎になります!」
廊下から悍ましい臭気が漂う。
「だ、大丈夫ですわ…。」
姫は近寄る事すら出来なかった。
すれ違うは確かに魔族。
姫は箱入り娘で魔族は見た事なかったが、確実に自身の生活する世界の動物とは構造が違った。
「メイドさん、貴女は何故人の形をしているの?他の方々を見るに人の形は貴女と魔王だけですが…。」
メイドはキラキラとした目で答えた。
「私達は魔力そのものが具現化した生き物です!ですので魔力の強弱によりカタチが決まります!より魔力が強いと、より高位の存在に近づいたカタチを取れる、という事です!」
「成程…その最たるが人のカタチですのね。」
メイドはクスクス笑う。
「違いますよ!私達は神を模しているのです。姫様方人間も神を模しておられるのでしょう?」
何を言っているのか分からなかった。
「では貴女も魔界ではかなり高位な存在という事なのかしら?」
「い、いえ私は低級魔族です!魔王様が姫様を怖がらせない為に人のカタチを作って下さったんです!最低級の魔族は空気を漂う魔力そのもの。私は、姫様が来られたおかげでカタチを頂けたのです!」
嬉しそうに答える。
人とは生まれ方から違う生き物なんだと初めて知った。
「そういう意味では姫様は命の恩人なのです!!私に命を与えてくれた、母の様な存在なのです!」
なんだか照れてしまう。
「色々教えてくださりありがとう。貴女、お名前は?」
恥ずかしそうに答える。
「名前…。名前は高位の魔族しか名乗る事を許されてないのです…。」
「そ、そうですの…。」
姫は少し考え、閃いた。
「そうだ!貴女が私の娘なら人の名前を与える事は許されるのではないかしら?」
「人の名前ですか…?考えた事もありませんでした!!」尻尾がぴょこんと立ち上がる。かわいいなと思ってしまう。
「そうね…。リンクちゃんとかどうかしら?」
「リンク…?人の言葉でどういう意味ですか?」
姫は魔界に来て初めて微笑み、意味を教えた。
「リンクは繋ぐって意味。人と魔族初めての繋がりだからリンクちゃんよ。」
メイド、リンクは飛び跳ねた。
「素敵な名前です!!ありがとうございます!!」
こんなに喜ばれると此方も嬉しいモノだ。
「私はシルヴィア。シルヴィーって呼んでくれるかしら?」
「そ、それは存じておりますが、私目がお名前で呼ぶなど…。」
シルヴィアはムッとした。
「なら名前没収するわよ?」
焦ったリンクは咄嗟に答えた。
「わ、分かりました!但し、他の者が見ていない場所限定にして下さい!!シ…シルヴィーちゃん…!!」
シルヴィアは取り敢えず、リンクの言う事は信じてみようと思った。
その時背後からとてつもない気配を感じ、振り返る。
「なにをしている。」
そこにいたのは魔王だった。
「も、申し訳ございません!今シル…お姫様にモッドモダン城の案内をしておりました!!」
魔王はシルヴィアの顔色を伺う。
「…そうか。姫よ、これまでの非礼の数々をお詫びする。見たければ好きに見て貰えれば良い。但し外と私の寝室は覗かないでくれ。」
「…は、はい。」
そう返事をするしかなかった。
魔王が立ち去った後2人は同時に腰を抜かした。
「あー緊張しちゃった!シルヴィーちゃん大丈夫?」
「私も人生で最も緊張致しましたわ!」
「魔王様とっても優しいんだけど、気配だけはすっごい怖いんです!」
「…魔王が、優しいんですの?」
リンクを取り敢えず信じたいシルヴィアは一つの提案をした。
「…でしたらリンク。私、魔王と2人で話してみたいの。」
リンクは驚いた。
しかし、それがとても素敵な提案だと感じた。
「進言してみます!魔王様も多忙だから、でもきっと喜んでくれます!!」
シルヴィアは自身に出来る限りの究明を誓った。