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勇者(68)  作者: 次元尖端
4/5

第2章 賢者の山


 真宵の森で過ごす初めての夜。

シルムンドは正直に怯えていた。

「シルムンド様、もうすぐ賢者の山です。今日は徹夜して森を抜けてしまいましょう!」

 確かにこんなところに居座るよりはマシだと思った。

その時!!

「シルムンド様!危ない!」

 魔族が襲いかかって来た。

「蝙蝠型の低級魔族、バットです!この程度ならシルムンド様でも撃退できましょう!レベルアップを狙うなら支援致しますので剣を振るって見て下さい!」

 これが初の戦闘だ。

シルムンドはへっぴり腰で剣を強く握る。

10代の頃、王家の教育として剣技を習っていた為扱えるハズだ。

ただし問題はアレから50年以上経っている事。

「ええい!ままよ!!」

 ブンブンと剣が一閃!バットにかすり傷が入り、火花が散る。

バットは怒って突進…かと思いきや、情けなく悲鳴を上げて逃げ去った。

「お見事です!」

「…もしかして、ワシ強い?」

「…いいえ、剣が強いのです。」

 ツタエルは正直者だ。

しかし、強い剣とツタエルが味方である事は、シルムンドに勇気を与えてくれた。

ツタエルの予想を大きく上回り、世が明ける前に森を抜ける事が出来た。


 賢者の山

 そびえ立つは標高3000mを超える世界で3番目に高い山。

「こ、こんな山68歳で本当に登れるの…?」

「安心して下さい!登山が趣味の大臣(60)が踏破しておりますし、登山具なら此処に!」

 大臣が登ったともあれば、負けられないと感じた。

 山を登りながらツタエルに問う。

「大臣はどうやってあの真宵の森を抜けたんだ?」

「真宵の森はあくまで最短距離。大回りしたら賢者の山までなぞ安全に来れますよ!」

「成程…。」

「300人も優秀な兵を従えていたら遠回りの方がバカらしいです!」

 改めて自身は甘えていたなと感じ、反省は脚を前に進ませる。

山登りは魔物と戦うより確実に体力を使う。

それは即ち成長を実感させるのだった。

真宵の森と比べたら少ないが、魔物は襲いかかって来る。

シルムンドは少しだが戦闘に慣れていった。

そして、山で一泊の後、ついに山頂に辿り着いた。

「シルムンド様!アレを…!」

 賢者の住まう小屋か?

シルムンドは老眼の目を細めて見つめる。

「日の出か…!」

 山の頂、尖端を包む雲。

そこからシルムンド達を突き刺す様に延びる朝の光。

見渡せば雲海。

その下にアラセボルドが存在しているなど想像も出来ない程に。

「自分の脚で歩く…か。」

「はい、これが自分の脚で歩くという事です。」

 2人は暫く動くことが出来なかった。しかし、太陽の丁度反対側、黒い太陽に似た球体がある。

それは、魔王の最終魔法。

人間が交渉に乗らなかった時、その球体は瞬く間にこの国を包み込むであろう。

2人は目的を取り戻す。

「…まだ第一歩にも満たぬな…。」

「ふぉっふぉっふぉっ…。客人とは珍しいのぅ…。」

 油断していた2人は振り返る。

だんだんと伸びる陽の光の照らす先、そこにはシルムンドよりも歳を召した老人が立っていた。

「ワシは毎朝、この日の出を見に来るのが日課なのじゃがな…。」

 魔界の方角を見つめ肩を落とす老人。

「毎朝…?貴方はもしやオーシェル様ですか?」

 長い眉毛がピクリと上がる。

「お主らはワシに用があって此処まで来たのか?」

 やはりそうだ。

ツタエルは矢継ぎ早に言葉を発しようとするがシルムンドが制した。

シルムンドは跪き、オーシェルに語りかける。

「賢者オーシェルよ。ワシの名はシルムンド。伝説の剣に選ばれ、勇者にならんとする者だ。魔界…あの黒の球体の下に我が娘がおる…。此度はオーシェル殿に魔界への道のりをお教え頂きたく此処まで来た。」

 オーシェルはひどく驚いた。

「な、なに!?伝説の剣に選ばれし者…!?こんなジジイじゃと!?」

 目を見開く2人。

「そこの若者ではないのか??何故こんなジジイが!?」

 腹の立つジジイだ。

「ワ、ワシはかつて魔王を退いた勇者の末裔、アラセボルド王国国王である!!」

 その言葉を聞いた途端、オーシェルの目つきが変わる。

近くに寄り顔を触りながら確かめる。

そして、涙を流したのだ。

「シ…シルグス…。そうか、お主シルグスの末裔なのじゃな…。確かに死ぬ前のシルグスにそっくりじゃ…!!」

 悉く失礼なジジイだ。

だが、流石勇者と共に旅をしていた従者。

似ているなどという意見はこの者以外の口からは聞けないだろう。

「ワシは未来視の魔法が使える。そこである予言を見ていた。勇者の末裔がワシの元に訪れ、ワシは道を標すのだと!!てっきり若き戦士2人組かと思い込んでおったわい。よくぞ此処まで!!その様な老体で…!!」

 もう腹は立たない。

何故なら目の前のオーシェルはヨボヨボもヨボヨボだったからだ。

3人はオーシェルの住まう小屋へと向かい、状況を説明した。


 オーシェルの小屋

「そうか…魔王に姫が拐われたのか…。あの時と同じじゃな。さらに魔界への行き方が長き時間により忘れ去られたと。」

ツタエルがシルムンドに耳打ちをする。

「オーシェル様…耳遠いですね…。この説明に1時間かかってしまいました…。」

「聞こえておるぞ!無礼者!!」

 お約束である。

「魔界へは風の港に眠る人類最後の飛空挺に乗って行く他ないな。飛空挺はフライヤという魔法を使える優秀な魔法使いが10人程必要じゃが、魔界への行き方も忘れ去られた現代、その魔法も途絶えておるだろう。」

 青天の霹靂。

既に魔界への道術は塞がれてしまっていたのだ。

「そ、そんな!!ではどうすれば私達は姫様を救出出来るのですか!?」

 オーシェルは髭を撫でながら答える。

「ふぉっふぉっふぉっ、1人だけおるよ。使える者が!」

 2人の気持ちは逸る。

「それは…ワシじゃ!200年前の勇者との旅でもワシ1人の力で飛空挺は浮かせたのじゃぞ!」

 空いた口が塞がらない。

ただ、納得した。

確かにこの世で最も優れた魔法使いは間違いなく目の前にいるオーシェルであった。

「ジジイジジイと失礼に感じさせたかもしれんが、ワシは嬉しかったんじゃ。同じジジイが愛する者、世界の為に立ち上がっているという事実が!ジジイでも努力すれば勇者になれるという事実が!」

 2人は少しオーシェルを誤解していた様に感じた。

「じゃからな?2人の旅に是非ワシも同行させて欲しいのですじゃ…!!」

「なっ…!!」

「なんだと!?」

「ワシとてまだまだ魔法の手は現役!2人より全然強いぞ!」

 飛空挺を浮かせてくれる、までは理解できる。

ただ200歳超の老賢者がついて来る事は想定していなかった。

ツタエルは耳打ちをする。

「ど、どうします…?確かに大いに戦力補強にはなりますし飛空挺を飛ばすのはオーシェル様にしか出来ない仕事ですが…。」

「だ、だが、ワシより大先輩じゃ…。例えば国へ帰した兵士から護衛を何人か呼び寄せ、港まで送り届けて貰うとか…。」

 オーシェルは大きく笑う。

「ふぉっふぉっふぉっ!聞こえておるぞ全部!心配はご無用じゃ!ほれ!」

 オーシェルは宙へ浮かんだ。

「これがフライヤ。飛空挺を浮かせられる魔力を持ったワシが冒険で足手纏いになるとは思わんで欲しいのぅ…!」

 シルムンドは答えた。

「…ワシは足腰だけを心配しておりました!その魔法が有るならば、迷わずお願いしたい!!」

 ツタエルもコクコクと頷く。

「ところでオーシェル殿…。ワシも最近足腰が悪くてな。その魔法かけてくれんか…?」

「シルムンド様!!それではレベルアップに繋がりませんよ!!」

「…(´・ω・`)」

「ギックリ腰になったらかけてやるわい!!ふぉっふぉっふぉっ!」

 \\オーシェル(218歳)が仲間になった!//

シルムンド(68) Lv.2〜Lv.6

ツタエル(19) Lv.12〜14

オーシェル(218) Lv.99

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