プロローグ 勇者の末裔とは
初投稿です。
遥か昔、アラセボルドでは人類と魔族の戦争があった。
大地は焼け、人は死に、圧倒的武力の差に人々は世界の終わりを待つことしかできなかった。
しかし、そんな時ある若者が立ち上がった。
のちに勇者と呼ばれる彼は、5人の従者を従え勇猛にも魔王に立ち向かい、勝利した。
彼は姫と結婚し、国王となり世界を治めた。
今ではアラセボルドは「平和の国」と呼ばれている。
勇者の振るった伝説の剣は、再び抜かれる日が来ない事を祈りながら王城の地下に収められている…。
しかし、200年の時が流れ、再び剣は抜かれる事となる。
「むっ…ぐぐぐぐぐ…!!」
「何をしておる!!この剣を抜く事が出来れば我が娘シルヴィアと結婚できるのだぞ!!」
「で、ですが王様…!!ピクリともしないのです!!」
アラセボルド城内、そこには力自慢の若者の行列が出来ていた。
「こ、国王。これで我が国の民は最後です。誰1人剣を抜く事は愚か、動かす事すら叶いませんでした…。」
大臣がバツが悪そうにそう告げる。
「何故だ!?必ずこの国の何処かに勇者の末裔がおる筈なのに…!!」
数日前、平和だったアラセボルドに大事件が起きた。
魔界モッドモダンの魔王、ヨルにより第一王女シルヴィアが誘拐されたのだ!
彼は姫の身柄と引き換えに世界の半分の土地を要求してきたのだった。
「むぅ…困ったぞ。娘も国土も彼奴等に渡す訳にはいかぬ…!!」
王、シルムンドは頭を抱えていた。
そこに、近衛の尖兵、ツタエルが訪れた。
「なんの用だツタエル。お主程の剣の実力者でもこの剣は抜けなかったであろう。」
ツタエルは重い口を開く。
「はっ!不躾ながら1人、勇者の末裔に心当たりがございまして…。」
シルムンドは目を見開いた。
「それは誠か!?早くそのものを此方に寄越せ!」
「その者…いえ、そのお方は今、目前に居られます…。」
シルムンドは何を言っているのか理解できなかった。
「何を言っておる?ワシの目の前におるのはツタエル、お前だぞ。」
ツタエルは気まずそうに王を上目で見る。
「い、いえ…。そのお方は私の目の前です。」
シルムンドは少し考え、何かに勘づいた。
「…もしかして…ワシ?」
城内に居る者全てが王に目線を配る。
大臣がハッと目を見開く。
「そ、そうか!!魔王を退治した後、勇者は姫君と結婚なされた!国王としてこの国を治められたのです!勇者の末裔は国王自身!よくよく考えれば当たり前の事でした…!!」
シルムンドは汗を流す。
「い、いや、だがな…。もし仮に勇者がワシだったとして、ならば力自慢の若者100人集めた方が強いんじゃないの…?」
ツタエルは横に首を振る。
「いえ、魔族は血の代わりに魔力を身体に流しております。この世界は魔力で満ちており、魔族は死しても魔力に還り、またその肉体を創るのです。即ち滅ぼす事は不可能…。この、女神の加護を受けた伝説の剣で斬る他には…。」
シルムンドは恐る恐る玉座から立ち上がり、剣の前に立つ。
国民も皆、固唾を飲んで王を見つめていた。
「そ、それじゃあ、触っちゃうよ?」
「…はい!!」
ツタエルは自信に満ちた目をしている。王が伝説の剣に手を伸ばした直後!
まるで磁石の様に剣は1人でに王の手に収まり、台座からスルリと抜けてしまった!
「うぉぉぉおおおおお!!!!!」
国民の雄叫び!
200年の伝説が動き出した事による衝撃!
王の権威!
シルムンドは何が何だか分からないまま、剣を高く掲げたのであった。
王城内、兵舎。
「ハッハッハッ!これで安心ですじゃな!」
大臣は胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。
動揺しているシルムンドとは裏腹に。
「安心して下さい、国王!私達近衛が王の身は何があっても御護り致しますので!」
ツタエルもとても前向きだ。
シルムンドは2人の態度にムカついていたが、士気に関わる為無視を決め込んだ。
「で、出来たぞ…。」
カーテンを開けるとそこには黄金の甲冑に身を包んだシルムンドの姿があった。
「おお!!なんと勇ましき出たち!!眼福でございます…!」
代々王家に仕える騎士の中で最も優秀な者にのみ贈られる王家の黄金鎧。
それを身につけた国王は史上初であった。
「我が父に国王自ら贈呈して頂いたこの鎧。息子であるワタシの手からこの様な形でお返しする事が出来るなどとは夢にも想いませんでした…!!」
シルムンドも段々とその気になっていく。
「表を上げい!に、似合うかの?ワシも中々様になっているとは思うのだが…。」
「はい!在るべき場所に収まったと言いますか…!」
シルムンドは剣を掲げファッションショーを始めた。
王の挙動一つ一つに拍手を送るツタエルと大臣。
しかし、此処で在る重大な問題が発覚する。
「あ、あのぅ…。実は、重くて歩けないのだが…。」
目を見合わせるツタエルと大臣。
そうだ、王は68歳。
…
出発の日、王を護衛する300人の騎兵団と御輿に担がれたシルムンド。
「国は一旦預けるぞ。」
「任せてくだされ、国王よ。」
シルムンドと大臣は固く拳を結んだ。
「それでは、これより国王自ら魔王討伐の旅に出る!国民達よ!敬礼!!」
平和の国アラセボルド。
その国の平和を護ってきたシルムンドは国民を愛し、また、国民達に愛されていた。
音が鳴り風を切る程の国民達の敬礼により、シルムンドは出発したのであった。
「待っておれシルヴィア。必ず父であるワシの手によって救い出す…!待っておれ魔王。必ず勇者の末裔であるワシの手によって討伐してみせる…!!」
68歳の冒険が、今始まった。
シルムンド(68) Lv.1
ツタエル(19) Lv.10