中学三年の「雪」
放課後。伽藍堂の教室。主人を失った机や椅子が列をなしてうずくまっている。
ふと窓越しに空を見やる。
黄色い声が聞こえる。部活に向かう1,2年の生徒たち。
もう部活を引退した身にとっては、関係のないことだった。数ヶ月前までその中にいたことが信じがたい。
部活は好きだった。運動自体が好きだし、スポーツとしても夢中になれる。
いつからか無邪気に楽しめなくなった。責任やストレスがのしかかったからだ。それも「大人になる」ことなのかもしれないが。
雪。実際には降っていないだろうが、私の眼には確実に映った。
四角く切り取られた世界はとてつもなく明媚だった。
暫く見惚れていた。我に帰った頃には、時計の長針が指す位置が12から5に変わっていた。
そろそろ帰らなければと準備を進めた。
急いで校門をくぐる。
外に出ても、教室で見た景色が瞼に焼き付いていた。
しかしそのとき気づいた。
空があまり綺麗に見えないのだ。燻んだ色の雲。嫌に冷たい空気。雪の結晶のかわりに舞う小蝿。
嫌悪感すら感じた。
私に幻影を見せたのはなんだったのだろうか。ふわりと疑問が浮かぶ。
儚さか。あの教室に満ちるあの儚さ。
刹那に散る桜。再度見ることはないあの景色。
全て儚い。それこそが美しさの根源なのだ。美しさのこちら側にはいつも儚さがある。
そして儚さの向こう側には美しさがある。
だから人生は美しい。一人で腑に落ちる。
送ってきた日々に時間を巻き戻すことは幾ら願えど叶わない。そこには濃い儚さが漂う。それが引き立たせるのは美しさの他ない。
だから、美しい。