第80話 ダブスタ
ここからは、一部方言を解除します。
グラピーがリビングに現れて、バアさんとオバさんがグラピーに吸い寄せられる様に寄ってきた。グラピーは軽やかにバアさん達の隙間をすり抜けてると、台所に鎮座。
振り向いて俺に「早くご飯くれ」っと言った目で訴えてくる。鹿肉をちょっと切り分けて細かく刻んで、レンチンして火を通したらご飯ととろみパウチを、鹿肉を混ぜてグラピーに差し出した。
目をキラキラさせてガッつく姿は、やっぱり微笑ましくなる。
「あらあらぁ、しったげな勢いで たもるもんだんすなぉ~。元気だごどぉ、元気だごどぉ!」
「ウチの猫だって こんだけ がんこに食べやせんてぇ。ほんとに 元気やねぇ、がんこやわぁ!」
そういえばオバさん所は野良猫の溜まり場だったな。
ウチの猫って…たしか10匹以上居たよな?
「せば、猫だぢの まんまわ どーするもんだんす?」
「お隣の辻本さんとこへ、猫らの まんま 預けてきたもんで 大丈夫やて。あの人も がんこ動物好きやで、喜んで引き受けてくれたがね」
さすがはオバさんだな、近所付き合いがパネェ。
まぁ近所じゃ猫好きが集まる『猫屋敷』で有名だからなぁ。オバさんの家、インプタでバズって収益化して全部猫達に使われてるからなぁ。
去勢避妊手術はもちろん、里親探しにも力入れてるし。
バアさんはバアさんで、国内最高級の野菜を育てる達人としてYouTubeeで取材を受けて有名になり、以降自身でもチャンネルを開設して農家の為の土作りと品質向上の為の動画を世に出してる。
ちなみにさっきから俺の料理や佳鈴との動画を撮ってるから、日常動画として編集するんだろうな。
動画編集もお手の物みたいだし……。
ピピピッ!
お、出来たみたいだな。
シメの『鹿肉の大和煮込み』を、お茶漬けのようにご飯の上に煮汁と肉を盛り付けて出すと、みんなサラサラっと食べていく。
俺も食べてみる。
甘辛いのに食べやすく、口の中に残らないサッパリとしつつも、鹿肉の野性味のある肉が良い具合に柔らかい。美味く作れて自分でも満足出来る一品だな。
「カ~ッ! 飲っだあとに こいは 染っみっどなぁー。おぅ 龍太郎、おかわりぉ くいっせ!!」
「おぅ 龍太郎、わだばも おがわり 頼むぉ! 肉っこ まんず たんげ盛ってけなっ!」
よく飲むし食べるなぁこのジイさん達は。
要望通りに肉多目で盛り付けて出す。
食い終わってやっと満足したのか、2人とも爪楊枝でシーハーしだす。田舎あるあるだなぁ。
*ここから方言を解除します。
「ありがとな龍太郎、美味かったぞ!」
「ああ、久方ぶりに鹿や熊をこんな美味く食べられて大満足じゃ!」
ジイさんバアさんも笑顔で褒めてくれる。少し照れくさい。
「お粗末様」
食べ終わった食器を片付けようとすると、佳鈴とオバさんが洗い物をしてくれる事になって、俺はリビングのイスにやっと座れた。
人数以上居るから仕方ない。
「にしても、なんで急にウチ来たんだよ?
連絡してくれたら迎えに行くのに」
「ん?連絡なら昨日郵便で送っただろ?見てないのか?」
「動画編集やら出来るのに、なんで連絡手段が郵便なんだよ」
なんでRainで連絡寄越さねぇんだよ。
ってか、郵便で送るならせめて1週間前に投函してくれ。
「晋也くんから連絡が来て、月見里さん親子が相次いで亡くなっただろ?盆も近いし、せめて手を合わせたくてな」
………そうか。
俺と佳鈴、そして莉桜親子は一緒にジイさんバアさん所に、盆や正月に一緒に行き来してたからな。面識があるどころか、もう親戚で孫娘として接してきたからなぁ。
「母さんの隣に添えてあるから、あとで手を合わせてやってくれ」
「ああ、いい機会だったし、ゆっくり手を合わさせてもらうよ」
オジさんがコップの水を飲み干しながらそう言う。
………ん?
「いい機会?」
疑問に思って聞き返すと、オジさん達は「ああ」と答えてから、ズボンのポケットからタバコを出して火を着けようとした。
「タバコ吸うならベランダ」
「ったく世知辛いねぇ」
オジさんがちょっと文句を言いながら、先にベランダでタバコを吸ってたセツに携帯灰皿を借りながら紫煙を燻らせた。
「で、いい機会って?」
残ったジイさんがホロ酔いで、今日ウチに来た理由を話してくれた。
「あぁ……ここ最近、熊の被害が多いってニュースを知ってるか?」
「ああ。山にエサが足りなくて、人里に降りてきて被害が出てるってアレか」
地球温暖化のせいかなんかで、山にエサが無くなってきて人里や街に熊が出没してるって、たしかネットニュースにも載ってたな。
「山にエサが不足してるのは確かなんだが、別の原因もあってな」
「別の?」
「この時期、山にハイキングに出掛けたりするだろ?
頑張って登って、頂上で食べる弁当とか美味いだろ?」
確かに、山に頂上まで登って、達成感のある中で食べる弁当は美味いだろうな。
「でもな、最近マナーの悪い連中が、山の中に残飯やゴミを捨てていってな。まぁそのゴミを熊が食べて、人間の作る食べ物の味を覚えちまう個体が増えてきてなぁ……」
……なるほど、そりゃ熊が街中に出てくる訳だ。
人間の作る食べ物は、自然に作られる食べ物と違って味が濃い。人間は加工する事で日持ちもさせるし、美味しくする為に工夫も凝らす。
そんなもん食べたら、"また食べたい"と欲求を覚える。
しかも熊は執念深い。
一度狙いを定めてしまえば、麻酔を撃ち込んで山の中に放り出そうがなんだろうが、わずかなニオイを頼りに戻ってくる。
そうなれば二次被害を招きかねないから、狩猟するしかなくなるな。
で、その仕留めた熊を、俺達は食べたと。
そういえば、ジイさんもオジさんも猟銃免許を持ってて、狩猟会にも入ってたな。
「けどつい先日、俺の猟銃免許を剥奪されてな」
「は?」
剥奪された?
なんで??
「なんか県知事の……名前なんだっけな?
まぁいいや。で、県知事のクソガキが、弾丸の跳弾や貫通のリスクがあるとかなんとか言ってきて、強権を使って、俺達の猟銃と免許を没収して来やがったんだ」
おいおい、たしかそれネットニュースにもなってたアレかよ?
ジイさん当事者だったのかよ。
「俺だけじゃない。狩猟会の仲間もみんな没収されてな」
「………まさか、オジさんも猟銃免許を?」
「ああ、東北の猟銃免許を持ってる人間のほとんどが、摘発の対象になってな」
無茶苦茶じゃねぇか。
「しかもコレを期に、どっかの動物保護団体が訳の分からん事を言い出す始末だ」
あぁ〜、クマが可哀想だとか、餌付けして仲良くなれとか言ってた動画が、SNSで拡散されてたなぁ。
どいつもこいつも頭の中がお花畑みたいに、何も考えてない感情論を言っててキモかったけど。
クマが可哀想とか言っておいて、テメェらはスーパーで売ってる豚牛鳥の肉食ってるのになぁ。
「こっちがどれだけなんと言おうが、聞く耳持たずでな、仕方がないから、一旦放っておこうって事になってな」
ブ〜ン、ブ〜ン
ジイさんのスマホが鳴りだす。
が、ジイさんは画面を一瞥して誰からの着信か見ると、ソレを無視して話を続けた。
「放っておくついでに、この際だから旅行でも行くか!ってなってな。行きたかった所を色々巡ってる所なんだw」
ニカッと良い笑顔で、俺に今回の旅路を教えてくるジイさん。
その間にもスマホが鳴り続けているが、全部フル無視。
既に旅行に出て一ヶ月経過しているらしく、京都まで行ってから帰ろうという事にしているらしい。
「まぁそろそろ、熊の恐ろしさを知ってくる頃合いだろうさ」
うわ〜……、ホントにイイ顔してんなぁ。
まぁ仕方がないよな。
動物の生態も知らず、山や海に感謝が無い。
自己満足で動物保護を訴えて来る連中には、言葉なんかよりも、自然の暴力というものを経験してもらわければ理解出来ない。
実際、日本のみならず、世界でも同じ事例はある。
わかりやすいのはオーストラリアだろうな。
日本の捕鯨文化を否定して、オーストラリア内の動物保護団体がクジラの保護を名目に、個体数を増やして歓喜していた。が、同時にサメの個体数も大きく増えてしまった。
理由は、寿命を迎えたクジラの死体を食べる為にサメが集まって、結果人間にも被害が及んだ。
それだけじゃない。クジラが増えた事で、クジラのエサになる魚が大量に消費されて、漁師達の漁獲量が大きく減って収入が低下。
魚の値段が爆上がりしてしまった。
そしてオーストラリアは、長年カンガルーの保護もしてきて、現在では3000万頭以上にまで個体数を増やしてきた。
が、3000万頭も居たらオーストラリア国内の至る所にカンガルーが出没する訳で、当然獣害が発生する。
農家の作物を食い荒らしたり、車との衝突も頻発し、調子に乗ったクソガキにカンガルーキックが炸裂したりと、日常生活にも支障をきたした。
これに焦ったオーストラリア政府は、保護だけでなく捕獲…まぁつまりは、カンガルーを食べようって事にしようとしたんだが………
"カンガルーを殺すのは可哀想だろ!!"
と、一部の頭の中がお花畑の連中によって邪魔をされて、今も狩猟が追い付いていないという……。
で、その状況がジイさんとオジさんの地元で発生していた。
気になってスマホで検索をかけてみると……
"熊被害、県知事の親族が重傷"
"熊に襲われて11人死亡"
"散歩中に熊に襲われる"
"〇〇県知事、熊に襲われて失明、右腕欠損"
うわ〜、出るわ出るわ熊被害記事。
しかも例の県知事、失明して右腕食われるとか………
同情の余地無いけど。
って事は、あの電話は県知事や、動物保護団体の連中によるSOSってところか?
「もうあと半月は楽しむ予定だからな、それまではアイツらに頑張ってもらうさw」
半月持つかなぁ?
お花畑の脳みそって、『思ってたんと違う!?』ってなるとすぐに逃げ出すのが定石だろ?
「そこは抜かりないぞ。
今日持ってきたクマはメスだったからな。アイツの膀胱からションベンさ抜いて、ソレを毎日一滴ずつ主要の道路に撒いてもらうように近所の汀さんに頼んで、オスのクマが毎日出てくるようにしてあるからな」
なんとまぁ悪辣な……
「車のクラクションでも鳴らせば、オスグマはさらに興奮して襲い掛かってくるからな」
余計に質が悪いな……。
まぁ素人なら理不尽に思うだろうが仕方ねぇか。
多分、熊避けの鈴の音と車のクラクションを同じ効果と勘違いしてる連中は多いだろうし。
熊は本来、人間を避ける習性があって、自然界にはない鈴の音を聞くことで熊は「あそこに人間がいる」と事前に察知して、自分から距離を取ってくれ、熊に逃げる時間的猶予を与えるための役割を果たしている。
同じように車のクラクションも、自然界にはない音ではあるが、鈴とは比較にならないほどの大きな音圧を持つ車のクラクションは、初めて聞いた熊にとってはパニックに陥りやすく、襲われる危険性が極めて高い。
そしてもっと恐ろしいのは、その車のクラクションの音に慣れた時だ。
大きな音を出すだけで、自分に危害は無いと学習する賢い熊の場合は、問答無用で車を横転させたり、車のガラスを割ったりして中の人間を襲いやすくなる。
その後は美味しく食べられたりする訳だ……。
「自然を舐めてる連中には、良い薬だろうさ……ファ〜」
酒飲んで食べたらそりゃ眠くなるよな。
布団の用意するか。
客間の押し入れから布団を4人分敷いて、寝かけのジイさんに肩を貸して布団まで連れて行くと、ジイさんは無意識で布団の中に潜り込んてイビキをかきはじめた。
風呂もまだなのになぁ。
とりあえず、明日起きたら一番にシャワーでも浴びてもらうか。
遺影の母さんも、ジイさんの酔って寝てる姿を見て、なんだか少し呆れてるように見えて、俺は客間の扉を閉めた。
ついでにセツの布団も用意するか。
もう一つ布団を別の所から出して、佳鈴の部屋の扉を開けたら………
「ム〜〜〜ッ」
ふくれっ面の朱里がそこに居た………。
「なんでお前ここに居るんだよ」
「仕方ないでしょ!?
ここでお昼寝してたらお客さん達が来て、出るに出られなかったんだから!!」
普通の人間に朱里は存在を認知出来ねえんだから、別に出てきたって………ダメだな。
ジビエ料理が一瞬で無くなるイメージしかない。
「………ハァ、お前の分もちゃんと取ってるから、今日はおとなしくしててくれ」
「ん、なら、我慢する」
素直でよろしい。
ベッドの隣に布団を敷いて、俺はその事をセツと佳鈴に伝えてから風呂に入った。
なんか今日は疲れたなぁ。
サッサと寝るか。
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よく朝、ジイさん達の分の朝食を作ってお越しに行くと、みんな俺よりも早く起きて、母さん達に線香を上げ、手を合わせていた。
盆は、亡くなった人達が現世に戻ってくる唯一の日。
母さん…自分の娘を勞ることが出来る時期なんだ。
俺はそっと襖を閉めて、リビングに朝食を並べてみんなが来るのを待った。
そして食べ終わってから、すぐにジイさん達は旅行の続きへと向かっていった。
慌ただしい日だったな。
ちなみに、ジビエ料理はジイさん達が出て行ったあと、全部朱里の腹の中に収まった。
お粗末様。
皆さんは、ちゃんとマナーやルールは守って下さいね。
それでは、今回は以上です∠(`・ω・´)




