第七話 妖怪
今更ですが、虫が苦手な人は覚悟してください。
体育館は本校舎の隣ある。
普段ならバスケ部やバレー部、卓球部とかが部活で使って掛け声などが響いているが、この場では静けさが支配していた。
体育館入り口前まで来ていた私にはものすごく不気味に思えた。
まるで体育館の中の闇が私に迫ってきているかのようにも感じた。
「うっわぁ……瘴気のレベルがここだけ段違いだわ」
「ここに大元がいるってことだろ。ならいつも通り、叩き斬るまでだ」
龍太郎は刀を納めた鞘を強く握りしめ、体育館内の中の闇を射抜くようにして睨みながら体育館の扉を開け、私もその後に続き、体育館の電気を付ける。
電気で照らされた中は至って普通のように見えたが……。
「なんだろ………すっごく草臭いというか………草とは違うというか………」
草の汁が乾燥してそのまま放置されたかのような…田舎でたまに嗅いでしまうような匂いが体育館の中に充満していた。
「原因はアレでしょうね」
朱里さんが上を見てそう言い、私も見上げてみると…………。
「!!」
体育館の天井はカマキリの卵でビッシリと埋まっていた。
さらに天井には私を襲ってきたカマキリよりは小さいが、十分に大きいカマキリ達がこれまたビッシリと、そしてジッとコッチを見つめていた………。
集団恐怖症でなくても発狂するレベルの数がいて悍しさを感じる。
「時間稼ぎかしら?」
「だろうな…」
カマキリの数もそうだが、天井の卵の中に一際大きな卵があり、カマキリがその大きな卵を守るかのように動く姿を見て龍太郎と朱里さんが分析する。
「あの卵が孵らないと大元も断てそうになさそうだ」
龍太郎が刀の柄に手を添えると、朱里さんは私を守った結界を張り始める。
「佳鈴ちゃん、危ないから動いちゃダメよ?」
龍太郎が眼を紅く光らせる。
すると天井のカマキリが一斉に反応して龍太郎に襲いかかった!!
数で押し潰さんばりに龍太郎に飛びつくが、龍太郎は既に2、3歩と後に引いてから連続居合斬りでカマキリを細切れにする。
刀の振るい終わりを今度はカマキリが狙うが、龍太郎は目にも映らない速度で壁に突っ込み、壁を蹴ってとんでもないスピードでカマキリを切り抜いて刻む。
そしてカマキリは、今度は羽を羽ばたかせて飛んで襲いかかるも、龍太郎は『喝』と鼓膜が破れるかと思うほどの声量でカマキリの動きを一瞬抑えると、カマキリに向かって跳び上がり、すり抜けざまに斬っていく。
程なくしてアッという間に尋常ではない数のカマキリの骸が出来上がり、体育館の床がカマキリの残骸で覆い尽くされた…………。
「うぇぇ…さすがにコレだけの数だと気持ち悪いわぁ」
朱里さんが毒づくと、カマキリの体液を振るって鞘に刀を収めた龍太郎が戻ってきた。
「どうだ朱里?」
「卵には少し瘴気が溜まったくらい?龍太郎のカマキリ駆除が速すぎて大元が出て来るまで時間掛かりそうかも?」
「………………」
龍太郎は少し天井の卵を見た。
「焼き払えるか?」
「そう言うと思った」
結界を張りながら、朱里さんはお尻のポケットから何か紙を1枚…御札のようなものを取り出し、卵に向かって投げ、『オン!』と一喝すると御札が火の鳥のようになって飛んでいった!
卵に火が回り始める。
一際大きな卵が燃え始めると、周囲の小さな卵が一瞬で燃え落ちていく。
が、それと同時に体育館に入った時の匂いが強くなって体育館に充満した……。
すると、少し燃え上がっていた大きな卵に変化が起きた。
パチパチ音を立ててはいるが、そこにバキっと何かが割れる音が響いた。
卵を見ると、何かがまるで脱皮でもするかのようにして這い出てきた。
それはカマキリではあったが、悍ましい姿をしていた。
一言で言えば、それは悪魔と言っても過言ではない姿形をしていて、今まで襲ってきたカマキリよりも凡そ6倍の大きさだった。
「…………ここを作った奴はどれだけカマキリ推しなのよ」
朱里さんが呆れてため息を付いたが、私は見たこともないそのカマキリを見て足が竦んでしまった。
後々わかったことだが、このカマキリは実在するカマキリだった。
名前を、ニセハナマオウカマキリ。
別名、タンザニアの怪物。
ヨウカイカマキリ科に分類されるものだった。
龍太郎はスッと刀を抜いてカマキリを睨み、刀を正眼に構えた。
カマキリも臨戦態勢を取り、怒りの感情を現すように羽を広げて鎌を広げた。