第75話 旭
新年2回目!
私が家で平和に過ごしている時、龍太郎は純也くんは一緒に、路地裏で静かに虐殺の様な事をしていた。
端から見れば昼間からヤバい人に絡まれているように見えなくもなかった。けど、龍太郎と純也くんは、現代社会に潜んでいた黒い存在を葬っているだけだった。
「や、止めろ!!くるな…グヘっ!?」
「警察…早く警察に、カヒュっ!!」
龍太郎の刀が、逃げようとした男の喉を頚椎ごと貫いて、純也くんのパンチが女の人の顔面を馬鹿げたパワーで殴って、顔面の骨が砕けて、破片が脳へと食い込んで陥没していた。
確実に致命傷。
路地裏が凄惨な現場と化したけど、犠牲になった人の血はすぐに乾いて、カピカピになって粉のように舞って、塵と混じって消えていった。転がった死体も、全身が錆となって、血と同じように塵と一緒になって消えていった。
「ふぅ」
「ったく、最近多いなぁ」
「ああ、どうも誰かが、意図的に増やしてるように思えるな」
この路地裏は、鬼門が出来やすい所だった。
鬼門とは、鬼や邪気が沸いて出てくる"あの世とこの世の境"、もしくは"亀裂"とされる場所。簡単に言えば"逆パワースポット"と言われる場所。
奴等はそこにやってくる、"錆人"と呼ばれる妖魔。
普通の人間とほぼ見分けがつかず、スーツ姿の冴えないサラリーマン風、またはフリーターっぽい服装。あるいは、仕事が出来るエリートな感じにまで多岐に渡る。
霊感のある人だけが「なんか顔の輪郭がぼやけてる」「目が虚ろすぎる」「周りの空気が少し重い」と感じて、近づくと無性に不安になったり、急に自分の人生が虚しく思えてきて、自然とその人から離れていく。
極端に穢れを溜め込むと、影が異様に濃くなったり、首筋に薄い黒い筋のようなものが浮かんで、ついには人で無くなる。
しかも、この妖魔は"自分が妖魔"という自覚が無くて、普通に人間社会に溶け込んでいる為に、実害が社会問題にも発展したことがある。
ブラック企業体質だ。
無自覚に言葉だけで、相手の自己肯定感をじわじわ削り取り、鬱に追い込んで、相手が自殺すると、その魂の「絶望の部分」を吸収して少しだけ強くなる。
中には優越感に浸る気質の錆人も存在する。「世の中こんなもんだよ」「甘えてるだけだろ」とか言いがちでもある。
あとは……
「おいおい、ガキ二匹がこんな所で何やってんだ?」
ガラの悪い男達が数人、路地裏の奥と表の両方から出て来て、龍太郎と純也くんの2人は挟み撃ちにされた。
「ガキがカタギ相手に騒ぎを起こしてるって聞いたが………」
男達の中に、ビシッとスーツに身を包んだ1人の大男が前に出てきた。
「なんかようか?」
「ガキがポン刀持って何してんだ?」
龍太郎の手に握られた刀を目にして、青筋を立ててドスの利いた声を出してきた。
が、龍太郎も黒い瞳を鋭くして男を睨み返す。
「何ガンつけてんだゴラッ!?」
「ケンカ売ってるか!?」
下っ端の男達が骨を鳴らして龍太郎に詰め寄るけど、その男達に対して龍太郎は………
ヒュッ
「グゲっ!?」
鞘に納めたままの刀で、男の顎を打ち抜いた!
「あ〜あ〜…」
純也くんは絡んで来た男に、心の中で手を合わせて(ご愁傷さま)っと呟いた。
そこから激昂した下っ端達が龍太郎を〆に掛かろうと突っ込んで来るけど、龍太郎は力の差を見せ付けるように無力化していく。
手の甲の骨が折られて、コメカミに衝撃が走り、鳩尾に拳が入る。下っ端達はアスファルトと盛大なキスをして踞った。
「…………」
下っ端が打ちのめされて、スーツを着た男は黙ってその様子を見続けた。そしてタバコを一服してから、龍太郎の所に歩み寄り、至近距離まで近付いた。
身体が大きく、威圧感があって眼光も鋭い。が、龍太郎はスーツの男から視線を外さなかった。
「………やっぱり、あの時のガキか」
何かをつぶやくと、男は一歩下がってから龍太郎に頭を下げ始めた。
「ウチの下っ端がすまなかったな」
「!?」
スーツの男が頭を下げたことに、下っ端達が眼を見開いて驚き、口々に声をあげたが、スーツの男が一言「黙れ」と一喝すると、下っ端達は口を閉ざした。
「俺達はこの街を縄張りにしてる壬生組って言うもんだ」
「壬生組、たしか武闘派のヤクザだったな」
「よく知ってるな」
「親父が警察なもんでな」
お父さんは捜査一課に勤めてるけど、被疑者関連でヤクザさんの情報を得たりもするから、そういった話が入って来やすい。私にはちょっと何言ってるか分からなかったけど、龍太郎は何故か色々知ってた。
「最近この辺りで、若い連中が悪さしててな。ちょっとこの辺りを張ってたんだが……お前じゃなさそうだな」
男の話によると、まだ未成年の高校生と思しき連中による被害があったらしい。その被害者の中に、壬生組の組長の娘さんがいて、激昂した組長が組員総動員の人海戦術で探し回っていると。
「物騒な話だな」
「ここは壬生組の縄張りだ。何かあれば俺達はどんな手段を使ってでもこの街を守る矜持があるんだよ」
暴対法で締め付けられていると言っても、彼等は様々な形で社会に貢献していた。
そして目の前の男は、龍太郎に名刺を渡してきた。
「何かあればここに連絡して欲しい」
「未成年になんてもん渡してんだ?」
「こんな所で刀持ってる時点で、ほとんどコッチ側だろうが。とにかく、アンタみたいもんでも情報が欲しいからな。頼んだぞ」
そう言うとスーツの男は、倒れた下っ端達を起こして路地裏の影へと消えて行った。
龍太郎は貰った名刺に目を移して、あのスーツの男の名前を見た。
壬生組
片山 旭
〇〇〇ー△△△△ー□□□□
何を思ってあの片山という大男は、龍太郎に名刺を渡したのかだろうか…?
肩をすくめながら、龍太郎はその名刺を制服の胸ポケットの中にしまって、刀を消失させてから街中に出て行った。
「龍太郎、ヤクザにも有名人になったな?w」
「嬉しくねぇよ」
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彼、片山という大男は、凡そ1年前に龍太郎の手によって助けられていた。
たまたま偶然、妖魔に出会わして応戦したが、ほとんど人と見まごう妖魔のパワーに重傷を負わされて、死を覚悟した。
そんな時に、紅い眼を光らせた龍太郎が無言で現れて、瞬く間に妖魔を斬った。
(あの時は一瞬の出来事だったが、間違いなくアイツだ)
暴対法で締め付けられているが、壬生組は一切武器を持たずに、敷地内の道場で、古流武術の殺人体術を構成員は修めていた。でも、古流武術は人対人を想定しているために、人外である妖魔相手には通じなかった。
人間の急所の鳩尾を打っても、首の骨を折る一撃を与えても、ちょっと怯むだけで歯が立たなかった。
しかも出会した妖魔は、錆人の上位互換の妖魔で、錆人を引き連れる小さなボス、"黴入"と呼ばれる妖魔だった。
黴入の名前の由来は、組織や集団全体に黴が生えたような存在だから。
性質はほとんど錆人と同じなんだけど、黴入には若干の戦闘能力があって、錆人を招き、人を錆人にして増やす性質があった。
しかも妖魔としての自覚が芽生えてもいて、人に対しての明確な悪意もある。
片山という男は、奇跡的に生き残った。数少ない妖魔の存在を知り、龍太郎が人外を狩る狩人だと知る数少ない人間だった。
(連絡が来ると信じて待つか)
片山は下っ端達に手を貸しながら、闇医者の所に向かって行くのだった。
新年初の人外討魔伝記はいかがでしたでしょうか?
本年もよろしくお願いしますね∠(`・ω・´)
まずは以上です!




