第73話 ちゃんと側にいるよ
続きです∠(`・ω・´)
亡者達の魂を成仏させて、手を合わせて祈っていると、型に乗っていた朱里が俺に耳打ちしてきた。
「龍太郎、ちょっといい?」
「なんだ?」
「ごめんなさい、佳鈴ちゃんに心臓の事がバレたわ」
「!」
…………そうか、ついにバレたか。
事の経緯を聞いて少しキレそうになったが………あの野郎、いったい何考えて佳鈴に話しやがった?
さっきから俯いてて様子がおかしいと思ってたが、そういう事か。
「……………………」
「……………………」
俺と目が合って、互いに沈黙する。
……どう言ったら良いのか、言葉が見つからない。
なんか気不味い雰囲気になって、俺は頭をバリバリ掻いてしまって、佳鈴は不安そうな顔で俺を見てくる……。
そして佳鈴が、意を決した表情で、俺に問いかけてきた。
「龍太郎………」
「……なんだ?」
「……………わたし、私は……人間、なの?」
「……………………」
「なんか、私の心臓って、キッチョウの神獣の心臓だって言われたけど………私が妖魔に狙われる理由って、心臓が原因なの……?」
………佳鈴が、泣きそうな顔でそう言う。
不安なんだという気持ちが、嫌というほどに伝わってくる。
肩を貸していたセツをグラウンドから校舎へ続く階段に降ろして、俺と佳鈴は少し離れたところで話すことにした。そして、俺達が佳鈴を助けに来る前に、フレネが話した事を話してくれた。
もう3ヶ月前の事か……。
莉桜と佳鈴の2人が妖魔に襲われて、その時に莉桜が佳鈴を庇って死んでのアレが、実はフレネが佳鈴の命を狙って莉桜の心を壊して、肉体の主導権を手に入れる為に起こしたと…。
ロクでもない事をしてくれやがって……
だが、莉桜が自己犠牲で死んだせいで、新たな肉体を作る必要に駆られて、今度はオバさんまで犠牲になった。
「なんで……私、生きてるの…?
私のせいで……莉桜ちゃんも、オバさんも……私が、こんな心臓持ってなかったら……死んでなかったんじゃないかって思って………」
「………………」
「龍太郎、私……人間なの………?」
佳鈴が泣きながら、俺を縋るようや目を向けてくる。
無理もない。
自分が当然の様に思っていた『普通』や『常識』を、証拠を持って真っ向から否定されたようなもんだ。
けどな………
「佳鈴」
俺は鬼の眼を………紅く光る眼で、佳鈴と目を合わせる。
「お前は、間違いなく人間だ。たとえ納得してなくても、誰がなんと言おうとな」
佳鈴は涙をこらえきれず、ぽろぽろと零しながら首を振る。
「でも……私の心臓、それがなかったら、莉桜ちゃんも死ななくて済んだのに…………」
「違う」
俺は静かに、でもはっきりと遮った。
「莉桜も、お前を守りたかったんだ。お前が生きててほしいって、心から思った。だから自分の命を賭けたんだよ」
佳鈴の肩が小さく震える。
「お前が『この心臓のせいだ』って自分を責めてる気持ち、痛いほどわかる。でもな、お前の心臓が麒麟のものだろうがなんだろうが、笑ったり泣いたり、怒ったり嬉しがったり、友達を大事に思ったり……全部やってるのは、お前自身だろ?
毎日ご飯食べて、寝て、起きて、朱里と馬鹿話したりしてるのも、全部お前だ。それが人間じゃなくて何なんだよ」
佳鈴は唇を噛んで、しばらく黙っていた。涙はまだ止まらないけど、さっきより少しだけ、表情が柔らかくなった気がした。
「それにな、莉桜は今でも、お前の事を大切に思ってるんだよ」
そう言うと、俺は佳鈴の前に立って、天へと昇っていく亡者達の魂に指をさした。
「あの魂達、見えるか?」
「………うん、見える」
「アレな、普通は俺みたいな人外でないと見れねぇんだよ。けど、佳鈴には見えてる。
何故だか分かるか?」
佳鈴の顔が暗くなった。
しまった、勘違いさせたか?
「少し言い方が悪かったな……。
普通はな、たとえ人外だということを差し引いても、こんな風に魂を見ることは出来ないんだ」
ここが霊磁場を利用して作られた所だとしても、普通の人間が魂を見る事なんか出来ない。
「佳鈴がこうやって魂を見る事が出来るのはな、莉桜がお前を護ってるからなんだよ」
「え………?」
佳鈴が驚きの表情をしたのと同時に、佳鈴の耳にしてある猫のピアスが、天へ昇っていく魂の光を反射する。
「莉桜の思いが、俺とお前を護ったんだよ。その思いがレンズみたいになって、こうして魂を見る事が出来てるんだ」
昇っていく魂を見ながら、俺は佳鈴の頭に手を添える。
死体共に押し潰されて、力を求めた時、俺は鬼の力に意識を持っていかれそうになった。けど、ギリギリの淵で莉桜に助けられて、羅刹紅蓮の力を思い出した。
アイツが一番傷付いているのに、自分よりも他者の為に行動する。
ホントに、莉桜には足を向けられないな。
「………私」
「?」
「私も、……莉桜ちゃんに助けられてた」
佳鈴が、右手で猫のピアスに触れながら、震える声で言葉を紡いだ。
「私、教室でフレネに操られて……自分で、首を吊ろうとしたんだ……。
苦しくて……苦しくて、もがけばもがくほど、もっと苦しくなっていって………」
「……………」
「そんな時に、目の前で………莉桜ちゃんが、私の首のロープを、解こうしてくれたんだ…………アレ、夢とかじゃなかったんだ…………」
大粒の涙を流して、佳鈴が猫のピアスをギュッと握りしめた。
「莉桜ちゃん、たすけてくれて……ありがとう」
涙でしゃくり上げて、佳鈴は声を上げて泣き出した。
………こういう時、俺はどう言ったら良いのか分からない。分からないが……俺は、佳鈴が泣き止むまで待つことにした。
そしてふと佳鈴に目を移すと……
(!)
………多分、今、俺にしか見えてないんだろう。
泣いている佳鈴を、莉桜が宥めるように、優しい笑顔をしながら頭を撫でていた。
死んでからも、供養してからも、ずっと佳鈴の側にいたんだな………。
(……ありがとな、莉桜)
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亡者達の魂を天に還したあと、朱里に疑似魔界を少しづつ解除していって現実世界に戻ってきた。
フレネの疑似魔界で俺達が暴れたせいで、コッチではとんでもない被害になっていた……。
学校のグラウンドは殺戮の木を焼き払った影響で、地割れを起こして使用不可。
校舎も、純也がポル・ポトを屋上から投げ落とした時に出来た大穴で大混乱。隕石が落ちてきたともっぱらの噂になってた。
そして一番の被害は、プロジェクションマッピングで彩られてた県庁舎が、ピンポイントで倒壊した事だろう。
倒壊に巻き込まれた職員は全員死亡。
県議会を開いていた為に、現職の市長を含めた大勢の市議会議員も犠牲になったが、コイツ等は元々あらぬ噂があった為に、市民からはそれ話題にはならなかった。
県庁舎のプロジェクションマッピングには税金が使われていたから、公金の無駄だと言われていた為に、それが跡形も無くなったから、関心が無くなったんだろう。
唯一、このプロジェクションマッピングに反対して、県議会からハブられていた市議会議員の女性議員が市長代理に抜擢され、今は壊れて無くなった県庁舎の再建に全力で頑張っていると聞いた。
そんな世情を尻目に、俺と佳鈴は母さんが眠っている墓所に来ていた。
母さんの墓のその隣に、もう一つ別の墓が建てられた。
俺と佳鈴は、その隣に建てられたお墓に線香を供えて、手を合わせて般若心経を唱えている。
小ぶりな御影石には『慈愛』と彫られ、側面には2人の名前が刻まれていた。
瑞希
没 令和七年七月十四日
享年 四十四歳
莉桜
没 令和七年五月九日
享年 十七歳
おばさんは、莉桜を産んだ後に家族から絶縁されてるから、旧姓である『月見里』を墓石に彫れば皮肉に取られる。
でもせめて、家族のように一緒に過ごしてきたから、母さんの横に小さいながらも墓を建てることにした。
親父に無理言って頼んで、なんとか建ててもらえた。
でもその際に、おばさんの両親の所に行って、おばさんと莉桜が亡くなった事を伝えに行ったんだが、反応は冷ややかなものだった。
口に出すのも胸糞悪い事を言ってて、親父は額に血管が浮き出てと言ってた。
まぁ、色々ゴタゴタしたけど、無事に墓は建てられた。
そして改めて、莉桜とおばさんの2人を弔う事が出来た。
「……………」
「……………」
般若心経を唱え終わり、静寂がこの場を包む。
線香の煙がユラユラと昇り、暑い夏の風に混じって鼻をくすぐる。隣で佳鈴が小さく息を吐く音が聞こえた。
「……龍太郎」
佳鈴が、ポツリと俺の名前を呼んだ。声はまだ少し震えていたが、泣きじゃくっていた時よりは、ずっと落ち着いている。
「ああ?」
「莉桜ちゃんのお墓……ちゃんと建ててくれて、ありがとう」
俺は目を閉じたまま、軽く首を振った。
「親父に頼んだだけだ。俺はただ、莉桜とおばさんが一緒に眠れる場所が欲しかっただけだ」
佳鈴は黙って、墓石に手を添えた。指先で『莉桜』の文字をなぞるように、優しく触れている。
「……私、莉桜ちゃんに、ちゃんと謝れてなかった」
涙は流してないが、少し赤く腫れた目元を擦りながら、莉桜の墓に視線を落す。佳鈴の声はまだ少し掠れていた。
「私のせいで、莉桜ちゃんは死んじゃったのに、私……怖くて、逃げてた。心臓のこと知ってからも、今日まで莉桜ちゃんのこと…考えるの怖くて……でも私、莉桜ちゃんに守られてばっかりだったのに、ありがとうって、ちゃんと伝えてなかった」
俺は黙って聞いていた。佳鈴の横顔が、墓石に映る線香の煙越しに、少し大人びた表情になっていた。
佳鈴は墓石に向き直り、深く頭を下げた。
「莉桜ちゃん……ごめんね。そして、ありがとう。莉桜ちゃんがいてくれたから、私、生きてこれた。莉桜ちゃんが守ってくれたから、私、今ここにいられるの」
風が少し強くなった。
線香の火が揺れて、墓石の文字を照らした。
「だから私、もう、自分を責めないようにする。じゃないと、莉桜ちゃんが悲しむから」
頭を上げて、精一杯の笑顔を莉桜に向けて笑う佳鈴。
その笑顔には、一筋の涙が流れていた。
「じゃあ、また来るね、莉桜ちゃん」
そう言うと、俺達はお供えした、莉桜がよく買ってたコンビニの100円クッキーと、ストレートティーを下げた。
近頃、頭のおかしい配信者が、墓地のお供え物を飲み食いした動画をアップロードして大炎上したからな。
そんなものに、莉桜を巻き込ませたくない。
「お母さん、莉桜ちゃん達をよろしくね。おばさんも、莉桜ちゃんも……ゆっくり休んでね。私たち、ちゃんと生きるから」
片付け終わって、去り際に母さんの墓に手を合わせる。
母さんもおばさんも仲が良かったから、アッチで井戸端会議でもしてるかもな。
(莉桜、俺も護るから、アッチから佳鈴を見てやってくれ)
俺も去り際に軽く手を合わせてから、佳鈴と一緒に帰路についた。
「龍太郎」
「ん?」
「………その、ありがとね」
「何がだ?」
「ずっと、私のことを…守ってくれてたよね?」
「…………」
「? 龍太郎、照れてる?」
「うるせぇ」
「口元、ユルんでるよw」
「うるせぇよ」
『こっちこそ、ありがとね、佳鈴ちゃん、龍太郎くん』
俺達の後ろ姿に笑顔で涙を流しながら、莉桜は見送ってくれた。
『大好きだよ』
その瞬間、佳鈴が無意識に耳のピアスに触れた。
風が吹いて、ピアスが小さく揺れる。
まるで、誰かが優しく頷いたように。
第3章、完にございます!
本年は人外討魔伝記を読んでいただきまして、誠にありがとうございます!
来年も是非、読んでくださいますよう、よろしくお願いします。
では、良いお年を∠(`・ω・´)




