第72話 家族写真
お疲れ様ですよ〜∠(`・ω・´)
引き続き、この回は龍太郎目線です。
羅刹紅蓮の紅い炎が天へと立ち昇り、雲に穴を空けながら殺戮の木を焼き払う。
木の幹がボロボロと崩れ落ち、中に閉じ込められていた亡者達の魂が解き放たれて、蛍のように飛んでいく。
純也が足止めしてくれていた亡者達も、皮が捲れて囚われていた魂が出ていき、また蛍のように飛ぶ。
ポル・ポトを焼き尽くした俺は着地すると、一気に疲れがドッと出て来て、グラウンドに大の字で寝転がってしまう。
「よ、お疲れさん!」
「あぁ……」
純也からの労いの言葉も生返事。
疲っかれた……………。
「にしても龍太郎! オマエなんだよあの炎!? あんな力いつの間に手に入れたんだよ〜?」
羅刹紅蓮の炎は、使えば強力だが、使う場面が限られそうだな。下手したら関係無い人間まで巻き込んじまう。
「スゴかったなアレ!! なんつーかさ、まさに鬼って感じのもんだったよな〜!」
それに使えば今みたいにドッと疲れが襲う。
いくら馴染みのある力とはいえ、無闇矢鱈に使うのは避けた方が良さそうだが………馴染みのある力?
………なんで、この炎が俺にとって馴染みのある力なんだ…………?
この炎の名前も、使い方も、今まで何百回と使ってきた感覚すらある。
いったいどうして………?
「なぁなぁ、使ってみてどんな感じだったんだよ〜? ちょっとくらい教えてくれても……」
ブチっ
ゴッッッ!!!(足払いで脛を蹴るの音)
「おフッッッ!!?」
ボゴォッ!!!(鳩尾に蹴りがクリーンヒットした音)
「ゴヘェッッ!!?」
ズザザーーーーッ!(純也がグラウンドで擦る音)
「うるせぇ、蹴るぞ?」
「もう蹴ってるだろ!?」
たいした事ないだろこんなもん。
ハァ、考えてた事がコイツのおかげで吹っ飛んじまった。
疲れた体に鞭打って身体を起こし、立ち上がって佳鈴達が逃げた方向に向かおうとした。だが、
「ん?」
視界の隅に、亡者達の魂とは違う何かが写った。
なんだ?っと思って手を伸ばして掴んでみると、それは写真だった。
かなり古いモノクロの写真で、そこに写っていたのは1人の男を中心に、大人の女性が2人と、たぶん娘なんだろうか? 小さな女の子が写っていた。
調子に乗ってた純也がヒョコッと顔を出して、持ってた写真を覗いてくる。
「ん?龍太郎、なにそれ?」
「知らねぇ写真だ。なんか降ってきた。オマエ知らねぇか?」
「んにゃ知らね。でも結構古い写真だよな? なんか教科書の写真みたいな?」
なんだってこんなもんが……?
とりあえず、朱里辺りが知ってそうだから、佳鈴の所に向かおう。
そう思って写真をポケットに仕舞おうとした時だった。
「龍太郎ーー!」
学校の校門から朱里が飛び出してきて、こっちにやって来た。後ろから佳鈴に肩を貸してもらいながら、セツの奴もこっちに歩いて来た。
「お!朱里ちゃーん! コッチコッチ〜!」
朱里の声が聞こえて純也の奴は、両手と一緒に尻尾もブンブン振ってる。朱里もノリ良く純也とハイタッチして、互いの無事を確認し合った。
俺は佳鈴の所に駆け寄って、怪我をしていないか確認しに行く。
「佳鈴、無事か?」
「龍太郎………」
「……どうした?」
佳鈴、なんか様子がおかしいな。
何かあったか?
疑問に思ったが、佳鈴に肩を貸してもらっているセツの方に目を向ける。
右足首を引き摺りながらどうにかここまで来たって感じなんだが、顔色があまり良くないみたいだった。
「大分やられたか?」
「いや、ちょっと開放骨折しただけだ」
「重傷じゃねぇか」
なんだよちょっと開放骨折しただけって……。
「しかも脳出血までしてたのよ彼女」
「瀕死の重傷だろそれ」
朱里が補足して、思った以上の怪我だった事に内心驚いた。
どんだけ強えんだ、あのフレネってヤツは………。
「よく生き残れたな?」
「奴の右腕1本は奪ったが、すぐに再生するだろうな。戦果としては、大したもんは出してない」
それでも、生き残れた事に安堵すべきだ。
俺も、思ってた以上に血を流しちまったからな。
「そういえば、お前コレに見覚えなんかあるか?」
俺はポケットに入れてた、あの写真をセツに見せた。彼女はソレを受け取ると、ジッと見て、思い出したようにこの写真の事を話した。
「コレは、ポル・ポトとその家族写真だな」
「ポル・ポトの?」
「おそらくだが、コレがF,Eの言ってた、反魂の術の媒介となったものだ」
この写真が?
こんなもんで、あんなバケモン呼び出したってのかよ……。
生前のポル・ポトと、女性2人にその娘。
全員笑顔で笑っているその写真は、それだけを見れば普通に微笑ましい写真なんだが………。
奴の所業を、亡者達から半強制的に視せられた身としてみれば、コレが特級呪物に見えてしまう。
「生前のポル・ポトは、国民に対しては『家族の絆』を徹底的に否定して、自身は私生活で家族を可愛がるという二面性を持ってたらしい」
セツ曰く、ポル・ポトにとっての「家族」は、「自分自身の家族」は愛でる対象であったが、「他人の家族」は革命の邪魔になる不要な概念として、破壊の対象であったと言えるらしい。
他人の家族の絆を平然と引き裂く呪いを持つ一方で、自らの大切なものを守るためなら何でもする、という矛盾を持つポル・ポト。
奴の死後、残された家族は、人口の1/4もの国民を殺した事実を差し引いても、「父のしたことは間違いじゃない」と語り、奴を愛していた事が伺えたらしい。
「………残された家族さん達は、どうなったんですか?」
佳鈴が恐る恐る聞いてきた。大抵の場合、独裁者とその親族は諸共処刑されてきた歴史がある。
だが、ポル・ポトの家族は皆、現在はカンボジアの発展に全力を尽くしつつ、幸せに暮らしているらしい。
それを聞いて佳鈴は、どこかホッとした様子で胸をなで下ろした。
これ以上、血で血を洗う話は聞きたくなかったんだろうな。
「………さて、もうちょっと仕事をするか」
俺は振り返って、殺戮の木から解放された亡者達の魂を見据えた。
いつまでもここに留まらせて置く訳にはいかないからな。
「朱里、やるぞ」
「オーケー!」
いつの間にか、純也と合体解除していた秋田犬のオルカの頭の上で、犬吸いしてた朱里が元気良く返事して、俺の肩に止まった。
俺は刀を抜いて、殺戮の木の生えていた場所に向かって、五芒星を刀で刻む。
そして刀をグラウンドに突き刺せば、俺を中心に地面に五芒星が浮かび上がり、霊力を放出して場の空気が変わる。
「国が違うからアレだけど、そこは我慢してね?」
肩の上で朱里が手印を刻み、俺が放出した霊力を使って浄化を開始する。
「苦しみの世を離れ、安らぎの道へ導かん
陰陽の理により、穏やかなる来世を願う
亡魂たちよ、光の橋を渡れ
怨みも恨みも、風に散らし浄めん
清浄の気満ちて、心安らげん
極楽の岸へ、優しく招かん
永遠の平和を、魂に授けん
暗き闇を照らし、温かなる光となれ
犠牲の痛みよ、癒され消えゆけ
安寧の園にて、憩いを得よ
輪廻の鎖を解き、自由となれ
慈悲の雨降りて、魂を潤せん
穏やかなる眠りへ、優しく導かん
過去の業を浄め、新たな生を願う
光輝の彼方へ、魂よ飛べ
苦しみ無く、喜び満ちたる世へ
陰陽の力もて、永遠の安らぎを
亡者たちよ、恐れず進め
優しき来世が、君らを待つ
浄土の花咲き、魂を包まん
安寧の風吹きて、心を癒せん
急急如律令、この願い成就せよ
魂よ永遠に、安らげよ、穏やかに」
唱え終わると、五芒星の形をした光が天を突き抜け、亡者達の魂がそこに吸い寄せられるように昇っていく。
ここはフレネの野郎が、学校を中心に霊脈から強力な霊磁場を発生させて作り出した。なら、その霊磁場を利用させてもらう。
霊磁場があれば、成仏させるのに無駄な手順を踏まずに済む。
亡者達の魂は、穏やかな気持ちで天へと昇っていった。
「これで、少しは報われるといいが……」
つい心に思った事が漏れた。
今度は、平穏で長生き出来る人生を歩んでくれ。
そう思いながら、俺は刀を納めてから手を合わせた。
毛沢東に影響を受けて、ポル・ポトのように国民に地獄を見せた国は他にもあります。
ナイジェリア、ペルー、モンゴルなどです。
今回ポル・ポトを選んだのは、犠牲になった人達の数がケタ違いに多かったからです。
この歴史は、決して忘れてはなりません。




