第70話 自縄自縛
続きやで〜!
無数の枝葉がしなり、俺に向けて攻撃してくるものを立身居合術で斬り伏せる。
そしてその断面からまた農具が生み出されて、その農具を振りかざしてくるが、集中する俺にはその軌道が見えている。
紅い眼を輝やかせながら的確に見切り、躱してすり抜けざまに斬る。
コレを繰り返しているが、近付くにつれてポル・ポトの殺戮の木からの攻撃が苛烈になっていく。
シャベルが撃ち出されるわ、鎌が飛んでくるわ丸鋸みたいに回転させて切りに来るわ、クワで耕そうとするわ、大槌で頭を割りにくるわ、俺を土の肥やしにしたくて仕方ないらしい。
相変わらず乱雑な攻撃だが、手数が多いから全ては捌ききれないから、躱せるもんは躱しつつ、斬るもんを斬ってポル・ポトに接近する。
枝葉の攻撃を見切り、伸びきった所でその枝を足場にして駆け上がる。進ませまいと殺戮の木が俺の邪魔をしようとするが、立身流は見切りの武術。
どんなに攻撃が激しかろうが、そんな稚拙なもんが当たるわけねぇだろ!!
躱し、斬り、蹴って、ポル・ポトに迫っていくが、俺はある考えからあえて回り道する事にした。
俺を遠ざけたくて攻撃してくる枝葉の意図にあえて乗ると同時に、殺戮の木の幹に刀を振るう。
苦し紛れに放った斬撃は、軽く幹に傷を付ける程度。
殺戮の木からは嘲笑のような声が聞こえてくるが、今は無視だ。
枝葉を斬り、幹を斬りつけながら、縛られているポル・ポトの方へと視線を向ける。
右肩と左手の甲、心臓付近に左太腿と、右足首から下を、幹から伸びたら蔓のようなもので縛り付けている。
端から見れば適当に縛れているように見えてるだろうが、俺からして見れば違う。むしろ分かりやすい行動をしているから、次に何をするのかが明確になって判断が早くなる。
案の定、殺戮の木が俺の周囲を囲むように枝を伸ばしてくる。だが、その枝の動きは予測通り、俺を遠ざけようと幹の反対側へ誘導するような軌道だ。
俺はあえてその誘いに乗り、殺戮の木の幹を背後に回り込むように大きく迂回する。
無数の枝が一斉に収縮し、俺を中心に渦を巻くように襲いかかる。シャベルが横薙ぎに、鎌が弧を描いて、丸鋸のように回転する刃が唸りを上げて迫り、大槌が横から叩き込まれる。
視界の端で捉えたシャベルの軌道。地面を這うように低く飛び込んでくるそれを、左足を半歩後退させるだけで避ける。
シャベルの刃が俺の脛の前を空を切り、勢い余って地面に突き刺さる。
横薙ぎの鎌は、体をわずかに沈めて、鎌の刃が頭上を通過するのを待つ。風圧が髪をなびかせる。
同時に、上段から振り下ろされるクワ。
柄が長く、死角から降ってくるが、俺はもうその軌道を読んでいる。
右肩を前に出し、体を捻る。
クワの刃が俺の左肩のすぐ横を落ち、地面を抉る。
大槌は横から。
重い一撃で避けきれない距離だ。俺は刀を逆手に持ち、短く一閃。
ガキンっ!!っという金属音。
大槌の柄を斜めに薙ぎ払い、軌道を逸らせる。勢いを殺がれた大槌が、俺の横を通過して別の枝にぶつかり、木屑を散らす。
最後に、回転する三枚の丸鋸モドキ。
角度が違い、タイミングをズラされていたから、全てを避けるのは難しい。
だから、斬る。
俺は刀を正面に戻し、立てるように構える。刃をわずかに傾け、最初の丸鋸モドキを迎え撃つ!
キィィン!火花が散り、丸鋸モドキの刃が俺の刀に弾かれ、回転を乱して横に逸れる。
それが二枚目の丸鋸モドキに打つかり、互いの刃が絡み合って止まる。
残る一つは、上から降ってきた。
俺は一歩だけ前に出て、丸鋸モドキの中心…回転軸の部分を刀の峰で弾く。
ガツン、という鈍い音。丸鋸モドキが跳ね上がり、殺戮の木の枝の突き刺さって止まる。
すべてが、ほんの一瞬の出来事だった。
周囲の枝が、呆然としたように動きを止める。
俺が再び一歩を踏み出すと、慌てたようにさらに攻撃をしてくる!
距離はまだ三メートル。息がかかるほど近いわけじゃない。
だが、ここまで来れば殺戮の木の攻撃が、俺を外へ逃がさないと決めているのが分かる。枝が密集し、農具が無数に生え揃い、俺を中心に完全に包囲する形になった。
次の瞬間、嵐のような猛攻がスタートする!!
まず地面からシャベルが十本以上、跳ね上がるように突き出される。刃を上にして、俺の足元から膝、腰、胸と段階的に突き上げてくる。
同時でじゃない。
わずかにタイミングをずらして、避けた先に次の刃が待つように計算されてる。
俺は右足を軸に体を捻り、一本目を横に流す。二本目は左足を半歩後退させて避け、三本目は沈み込んで頭上を通過させる。四本目以降はもう動きを読んでいる。シャベルの柄が伸びきった瞬間、俺は低く滑り込むように前進。
一歩で一メートル、距離を詰める。横から鎌が五枚、弧を描いて薙ぎ払われる。
腰の高さ、胸の高さ、首の高さと三段構え。互いの刃が干渉しないよう、絶妙にタイミングがずれている。
俺は体を伏せ、最初の腰の高さの鎌を潜る。
同時に刀を逆手に持ち替えて、胸の高さの鎌の柄を軽く叩く。軌道がわずかに上がり、首を狙った三枚目の鎌と打つかって互いに弾かれて、金属音が響き、火花が散る。
そして今度は死角の上空から、クワが振り下ろされる。
しかも二本。
左右対称に、俺の肩を狙って。
俺は一歩だけ左に踏み込む。
右側のクワが地面を抉り、左側のクワがそのすぐ横に落ちる。二本の刃が交差する地点に俺はもういない。
次に大槌。
三つ同時に、横から、前から、斜め後ろから。重い一撃で空気を震わせて迫る。避けきれない距離だな。
だが、俺は刀を構えず、ただ体を沈めて前進する。
大槌の柄が最も伸びきる瞬間、三つの槌が互いの軌道を邪魔し合う一瞬を、俺は見切っている。一歩でその中心に滑り込む。
三つの大槌が空を切り、互いに打つかり合う。
鈍い衝撃音が響き、柄が折れる音がする。
木屑が飛び散り、その隙に俺はさらに一メートル進む。
距離、二メートル。
殺戮の木が焦っているのか、枝の動きが乱れ始める。
今度は丸鋸モドキ。
回転しながら飛んでくる刃が七枚。角度がバラバラで高さも違う。
まるで壁のように俺の進路を塞ぐ。普通ならここで足を止めるのだが、俺は歩幅を変えない。一歩目を大きく、二歩目を小さく、三歩目を逆に大きく、不規則なリズムで進む。
一枚目の丸鋸モドキが頭上を通過。
二枚目は腰を捻って避け、三枚目は半歩後退してやり過ごす。
四枚目は再び前進し、回転の中心を潜り抜ける。五枚目、六枚目は互いの刃が絡み合い、七枚目は勢い余って枝に突き刺さる。火花と木屑が舞う中、俺はまた進む。
距離、一メートル。
殺戮の木が最後の抵抗を見せる!
今度は全て同時。
シャベルが突き出し、鎌が薙ぎ、クワが振り下ろされ、大槌が叩き込まれ、丸鋸モドキが回転しながら襲いかかる。
数十の農具が、一斉に俺を潰そうとする。空気が重くなる。風圧だけで体が押し戻されそうだが、俺は止まらない!
必要最低限の動きで、必要最低限の空間だけを確保しながら前へ進む!
シャベルの刃が脛の前を通過する瞬間、俺は右足を出す。鎌が首の横を薙ぐ瞬間、俺は首を傾ける。クワが肩に落ちる直前、俺は体を捻る。大槌が胸を潰す直前、俺は一歩進む。丸鋸モドキが体を切り裂く直前、俺は半歩だけ横にずれる。
全てが、紙一重。
農具が空を切り、互いにぶつかり、枝が折れ、木屑が雪のように降る。その中心で、俺は静かに最後の一歩を踏み出す!
そしてついに、俺はポル・ポトの眼前にまで来た!!
「よう、覚悟は出来たなキモジジィ?」
今だに首が180度回ったまま、革命歌を歌い続けている奴の後頭部に刻まれた逆さ十字に、俺は迷う事なく二閃を放った!
本来逆さ十字は、聖ペトロの十字と呼ばれたもの。
使徒ペトロはイエス・キリストの弟子の一人で、初代ローマ教皇とされる人物なんだが、ネロ帝の時代にローマで殉教したとされている人物。
「自分はイエスと同じように十字架で死ぬ資格がない」と感じ、逆さ磔にするよう自ら頼んだという伝承があるほどに、キリストへの深い敬意と、自分を低く見る姿勢を表していた、言わば『謙遜と殉教』の象徴として記されたものだった。
だが19世紀頃から、フランスの神秘主義者"ウジェーヌ・ヴァントラ"という人物が、逆さ十字を「通常の十字の逆」として使い始めた事を切っ掛けに、ホラー映画や物語によって、反キリスト、悪魔崇拝、サタニズムの象徴として広まっていって、世間からはそういう意味となって浸透しまった。
人の言葉には力が宿る。
言霊によって浸透した呪いまで反魂に利用する辺り、あのフレネって死霊術師は質が悪い。
コイツの逆さ十字は、聖なる十字を冒涜的に逆さまにした呪いの印だ。
ただ単に一閃で斬っただけでは、「逆さ」の部分を正しただけで、十字そのものが持つ呪縛までは断ち切れない。
呪いはまだ残り、敵の意志は別の形で蘇る可能性がある。
一撃目で「逆さ」を正位置に戻し、冒涜の形を崩す。
二撃目で「十字」そのものを完全に砕き、呪いの根源を根こそぎ断つしかなかった。
後頭部に刻まれた逆さ十字を破壊して、この世に縛り付ける反魂の呪縛を解き放てる……筈だった。
ポル・ポトの首がまた180度回って俺に視線を向けると、醜悪な笑みを浮かべた。
倒した。そう思っただろう?
そんな事を言っているように思えた。
『ーーーーーーーーーーーー!!!!』
号令と共に、ポル・ポトが仕込んでいた罠が作動した!
グラウンドの土の中から一斉にシャベルが何十本と撃ち出され、俺の死角になる殺戮の木の裏側から丸鋸モドキが飛んできて、四方八方からあらゆる農具が、枝葉が襲い掛かり、俺は次々とその一斉攻撃を受けた!!
『ケ…ケケ……!』
『フハハハっ!』
『ハハハハハハハハハハハハハ!!』
『クァハハハハハハハハ!!!』
『イィーーーヒッヒッヒッヒッ!!』
何処からか聞こえる男達の笑い声。
全身を農具と殺戮の木の枝葉に貫かれ、抉られ、臓器をズタズタにされて、大量の血を流して動かなくなった俺を見て、さぞかし気持ちが良かっただろう。
敵を討ち破って酔いしれてるだろう。
それが、本物の俺だったらな。
ポル・ポトが俺だと思って攻撃した物の上に、静かに降り立つ。
『ッッッ!!?』
そんな驚くなよ。
折角の醜い顔が台無しだぞ?
「陰陽道 凭代の替魂」
セツがヒトラーの逆さ十字を破壊出来たのは、単純に魔力と弾丸によるゴリ押しで破壊出来た設定です。
そして龍太郎が逆さ十字を「二閃」で破壊した理由を簡単に。
逆さ十字は、聖なる十字を冒涜的に逆にした呪いの印です。
世間に浸透した負のイメージを利用したフレネの反魂の術なので、二重の意味を持っています。
・「逆さ」という冒涜の形
・「十字」そのものの呪縛一閃(横薙ぎ)だけだと「逆さを正した」だけで、十字の呪縛は残ります。
敵の意志は別の形で蘇る可能性が残ってしまう。
だから二撃必要でした。
・一撃目(横薙ぎ)→ 逆さを正位置に戻し、冒涜を崩す
・二撃目(縦斬り)→ 十字そのものを砕き、呪いの根源を断つ。
このあとの展開は続きで∠(`・ω・´)




