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人外討魔伝記  作者: 一ノ瀬カイヒロ
第三章 穢れた胎の叫び
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第70話 自縄自縛

続きやで〜!


無数の枝葉えだはがしなり、俺に向けて攻撃してくるものを立身居合術たつみいあいじゅつせる。


そしてその断面からまた農具が生み出されて、その農具を振りかざしてくるが、集中する俺にはその軌道が見えている。


紅い眼を輝やかせながら的確に見切り、躱してすり抜けざまに斬る。

コレを繰り返しているが、近付くにつれてポル・ポトの殺戮の木(キリング・ツリー)からの攻撃が苛烈かれつになっていく。


シャベルが撃ち出されるわ、鎌が飛んでくるわ丸鋸まるのこみたいに回転させて切りに来るわ、クワで耕そうとするわ、大槌スレッジハンマーで頭を割りにくるわ、俺を土の肥やしにしたくて仕方ないらしい。


相変わらず乱雑な攻撃だが、手数が多いから全てはさばききれないから、かわせるもんはかわしつつ、斬るもんを斬ってポル・ポトに接近する。


枝葉えだはの攻撃を見切り、伸びきった所でそのえだを足場にして駆け上がる。進ませまいと殺戮の木(キリング・ツリー)が俺の邪魔をしようとするが、立身流たつみりゅうは見切りの武術。

どんなに攻撃が激しかろうが、そんな稚拙ちせつなもんが当たるわけねぇだろ!!


かわし、斬り、蹴って、ポル・ポトにせまっていくが、俺はある考えから()()()回り道する事にした。


俺を遠ざけたくて攻撃してくる枝葉えだは意図いとにあえて乗ると同時に、殺戮の木(キリング・ツリー)みきに刀を振るう。

くるまぎれに放った斬撃は、軽くみきに傷を付ける程度。


殺戮の木(キリング・ツリー)からは嘲笑ちょうしょうのような声が聞こえてくるが、今は無視だ。


枝葉えだはを斬り、みきを斬りつけながら、縛られているポル・ポトの方へと視線を向ける。

右肩と左手の甲、心臓付近に左太腿ひだりふとももと、右足首から下を、みきから伸びたらつるのようなもので縛り付けている。


はたから見れば適当に縛れているように見えてるだろうが、俺からして見れば違う。むしろ分かりやすい行動をしているから、次に何をするのかが明確になって判断が早くなる。


案の定、殺戮の木(キリング・ツリー)が俺の周囲を囲むように枝を伸ばしてくる。だが、その枝の動きは予測通り、俺を遠ざけようとみきの反対側へ誘導するような軌道だ。

俺はあえてその誘いに乗り、殺戮の木(キリング・ツリー)の幹を背後に回り込むように大きく迂回する。



無数の枝が一斉に収縮し、俺を中心に渦を巻くように襲いかかる。シャベルが横薙よこなぎに、鎌がを描いて、丸鋸まるのこのように回転する刃がうなりを上げて迫り、大槌スレッジハンマーが横から叩き込まれる。


視界のはしとらえたシャベルの軌道。地面をうように低く飛び込んでくるそれを、左足を半歩後退させるだけで避ける。

シャベルの刃が俺のすねの前を空を切り、勢い余って地面に突き刺さる。


横薙よこなぎの鎌は、体をわずかにしずめて、鎌の刃が頭上を通過するのを待つ。風圧が髪をなびかせる。

同時に、上段から振り下ろされるクワ。

柄が長く、死角から降ってくるが、俺はもうその軌道を読んでいる。


右肩を前に出し、体をひねる。

クワの刃が俺の左肩のすぐ横を落ち、地面をえぐる。


大槌スレッジハンマーは横から。

重い一撃で避けきれない距離だ。俺は刀を逆手に持ち、短く一閃。


ガキンっ!!っという金属音。


大槌スレッジハンマーつかななめにぎ払い、軌道をらせる。勢いを殺がれた大槌スレッジハンマーが、俺の横を通過して別の枝にぶつかり、木屑を散らす。


最後に、回転する三枚の丸鋸まるのここモドキ。


角度が違い、タイミングをズラされていたから、全てを避けるのは難しい。



だから、斬る。



俺は刀を正面に戻し、立てるように構える。刃をわずかに傾け、最初の丸鋸まるノコモドキを迎え撃つ!


キィィン!火花が散り、丸鋸まるノコモドキの刃が俺の刀に弾かれ、回転を乱して横に逸れる。

それが二枚目の丸鋸モドキにつかり、互いの刃が絡み合って止まる。


残る一つは、上から降ってきた。


俺は一歩だけ前に出て、丸鋸まるノコモドキの中心…回転軸の部分を刀のみねで弾く。

ガツン、という鈍い音。丸鋸まるノコモドキが跳ね上がり、殺戮の木(キリング・ツリー)の枝の突き刺さって止まる。


すべてが、ほんの一瞬の出来事だった。


周囲の枝が、呆然としたように動きを止める。

俺が再び一歩を踏み出すと、慌てたようにさらに攻撃をしてくる!


距離はまだ三メートル。息がかかるほど近いわけじゃない。


だが、ここまで来れば殺戮の木(キリング・ツリー)の攻撃が、俺を外へ逃がさないと決めているのが分かる。枝が密集し、農具が無数に生えそろい、俺を中心に完全に包囲する形になった。



次の瞬間、嵐のような猛攻がスタートする!!



まず地面からシャベルが十本以上、跳ね上がるように突き出される。刃を上にして、俺の足元から膝、腰、胸と段階的に突き上げてくる。

同時でじゃない。

わずかにタイミングをずらして、避けた先に次の刃が待つように計算されてる。


俺は右足をじくに体をひねり、一本目を横に流す。二本目は左足を半歩後退させて避け、三本目は沈み込んで頭上を通過させる。四本目以降はもう動きを読んでいる。シャベルのつかが伸びきった瞬間、俺は低く滑り込むように前進。


一歩で一メートル、距離を詰める。横から鎌が五枚、を描いてはらわれる。


腰の高さ、胸の高さ、首の高さと三段構え。互いの刃が干渉かんしょうしないよう、絶妙にタイミングがずれている。

俺は体をせ、最初の腰の高さの鎌を潜る。

同時に刀を逆手に持ち替えて、胸の高さの鎌の柄を軽く叩く。軌道がわずかに上がり、首を狙った三枚目の鎌とつかって互いに弾かれて、金属音が響き、火花が散る。


そして今度は死角の上空から、クワが振り下ろされる。


しかも二本。


左右対称に、俺の肩を狙って。


俺は一歩だけ左に踏み込む。

右側のクワが地面をえぐり、左側のクワがそのすぐ横に落ちる。二本の刃が交差する地点に俺はもういない。


次に大槌スレッジハンマー

三つ同時に、横から、前から、斜め後ろから。重い一撃で空気を震わせて迫る。避けきれない距離だな。


だが、俺は刀を構えず、ただ体をしずめて前進する。


大槌スレッジハンマーつかが最も伸びきる瞬間、三つのハンマーが互いの軌道を邪魔し合う一瞬を、俺は見切っている。一歩でその中心に滑り込む。

三つの大槌スレッジハンマーが空を切り、互いにつかり合う。


鈍い衝撃音が響き、つかが折れる音がする。

木屑が飛び散り、その隙に俺はさらに一メートル進む。



距離、二メートル。



殺戮の木(キリング・ツリー)が焦っているのか、枝の動きが乱れ始める。


今度は丸鋸まるノコモドキ。

回転しながら飛んでくる刃が七枚。角度がバラバラで高さも違う。

まるで壁のように俺の進路を塞ぐ。普通ならここで足を止めるのだが、俺は歩幅を変えない。一歩目を大きく、二歩目を小さく、三歩目を逆に大きく、不規則なリズムで進む。


一枚目の丸鋸まるノコモドキが頭上を通過。


二枚目は腰をひねって避け、三枚目は半歩後退してやり過ごす。


四枚目は再び前進し、回転の中心を潜り抜ける。五枚目、六枚目は互いの刃がからみ合い、七枚目は勢い余って枝に突き刺さる。火花と木屑が舞う中、俺はまた進む。



距離、一メートル。




殺戮の木(キリング・ツリー)が最後の抵抗を見せる!




今度は全て同時。


シャベルが突き出し、鎌が薙ぎ、クワが振り下ろされ、大槌スレッジハンマーが叩き込まれ、丸鋸まるノコモドキが回転しながら襲いかかる。


数十の農具が、一斉に俺を潰そうとする。空気が重くなる。風圧だけで体が押し戻されそうだが、俺は止まらない!

必要最低限の動きで、必要最低限の空間だけを確保しながら前へ進む!


シャベルの刃がすねの前を通過する瞬間、俺は右足を出す。鎌が首の横をぐ瞬間、俺は首をかたむける。クワが肩に落ちる直前、俺は体をひねる。大槌スレッジハンマーが胸を潰す直前、俺は一歩進む。丸鋸まるノコモドキが体を切り裂く直前、俺は半歩だけ横にずれる。


全てが、紙一重かみひとえ


農具が空を切り、互いにぶつかり、枝が折れ、木屑が雪のように降る。その中心で、俺は静かに最後の一歩を踏み出す!


そしてついに、俺はポル・ポトの眼前にまで来た!!



「よう、覚悟は出来たなキモジジィ?」



今だに首が180度回ったまま、革命歌を歌い続けている奴の後頭部に刻まれた逆さ十字に、俺は迷う事なく二閃を放った!



本来逆さ十字は、聖ペトロの十字と呼ばれたもの。


使徒しとペトロはイエス・キリストの弟子の一人で、初代ローマ教皇とされる人物なんだが、ネロ帝の時代にローマで殉教じゅんきょうしたとされている人物。


「自分はイエスと同じように十字架で死ぬ資格がない」と感じ、さかはりつけにするよう自ら頼んだという伝承でんしょうがあるほどに、キリストへの深い敬意けいいと、自分を低く見る姿勢を表していた、言わば『謙遜けんそん殉教じゅんきょう』の象徴しょうちょうとして記されたものだった。


だが19世紀頃から、フランスの神秘主義者"ウジェーヌ・ヴァントラ"という人物が、逆さ十字を「通常の十字の逆」として使い始めた事を切っ掛けに、ホラー映画や物語によって、反キリスト、悪魔崇拝、サタニズムの象徴しょうちょうとして広まっていって、世間からはそういう意味となって浸透しんとうしまった。


人の言葉には力が宿る。

言霊ことだまによって浸透しんとうした呪いまで反魂はんごんに利用する辺り、あのフレネって死霊術師ネクロマンサーは質が悪い。


コイツの逆さ十字は、聖なる十字を冒涜的ぼうとくてきに逆さまにした呪いの印だ。

ただ単に一閃で斬っただけでは、「逆さ」の部分を正しただけで、十字そのものが持つ呪縛じゅばくまでは断ち切れない。

呪いはまだ残り、敵の意志は別の形で蘇る可能性がある。


一撃目で「逆さ」を正位置に戻し、冒涜ぼうとくの形を崩す。

二撃目で「十字」そのものを完全に砕き、呪いの根源を根こそぎ断つしかなかった。



後頭部に刻まれた逆さ十字を破壊して、この世に縛り付ける反魂はんごん呪縛じゅばくを解き放てる……はずだった。



ポル・ポトの首がまた180度回って俺に視線を向けると、醜悪しゅうあくな笑みを浮かべた。




倒した。そう思っただろう?




そんな事を言っているように思えた。



『ーーーーーーーーーーーー!!!!』



号令と共に、ポル・ポトが仕込んでいた罠が作動した!


グラウンドの土の中から一斉にシャベルが何十本と撃ち出され、俺の死角になる殺戮の木(キリング・ツリー)の裏側から丸鋸まるのこモドキが飛んできて、四方八方からあらゆる農具が、枝葉えだはが襲い掛かり、俺は次々とその一斉攻撃を受けた!!




『ケ…ケケ……!』

『フハハハっ!』

『ハハハハハハハハハハハハハ!!』

『クァハハハハハハハハ!!!』

『イィーーーヒッヒッヒッヒッ!!』



何処からか聞こえる男達の笑い声。



全身を農具と殺戮の木(キリング・ツリー)枝葉えだはに貫かれ、えぐられ、臓器をズタズタにされて、大量の血を流して動かなくなった()を見て、さぞかし気持ちが良かっただろう。


敵をやぶって酔いしれてるだろう。








それが、()()()()()()()()()








ポル・ポトが俺だと()()()()()()()物の上に、静かに降り立つ。




『ッッッ!!?』




そんな驚くなよ。


折角せっかくみにくい顔が台無しだぞ?



陰陽道おんみょうどう 凭代かみだ替魂たますげ


セツがヒトラーの逆さ十字を破壊出来たのは、単純に魔力と弾丸によるゴリ押しで破壊出来た設定です。


そして龍太郎が逆さ十字を「二閃」で破壊した理由を簡単に。


逆さ十字は、聖なる十字を冒涜的に逆にした呪いの印です。

世間に浸透した負のイメージを利用したフレネの反魂の術なので、二重の意味を持っています。

・「逆さ」という冒涜の形

・「十字」そのものの呪縛一閃(横薙ぎ)だけだと「逆さを正した」だけで、十字の呪縛は残ります。


敵の意志は別の形で蘇る可能性が残ってしまう。

だから二撃必要でした。

・一撃目(横薙ぎ)→ 逆さを正位置に戻し、冒涜を崩す

・二撃目(縦斬り)→ 十字そのものを砕き、呪いの根源を断つ。


このあとの展開は続きで∠(`・ω・´)

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